<人間の條件1部2部>
一部では、太平洋戦争末期、満州の鉱山における中国人労働者と中国人捕虜への強制労働を描いている。
同じく原作五味川純平、山本薩夫監督の「戦争と人間」がマクロの視点から大陸での軍部と財閥の経済活動(やはり鉱山が主)の関係をダイナミックに描いたのに対し、こちらはミクロの視点で夫婦と軍隊の人間関係に焦点を当て、戦時下でいかに人間性が失われていくのかを細やかな心理描写を通して、えぐりだし、反戦のメッセージをストレートに伝えている。
観始めてから、「戦争と人間」と設定が近く、主人公が両者似た性格なことに気づき、原作を調べたら、モデルと言われている実在の人物がいることがわかった。労務管理という概念をつくり、のちに労働経済学の一人者となった学者で、自ら満州の鉱山労働のむごたらしい実態を体験するために労働者として現場に飛び込んだ方。その鉱山で働いていた原作者と知り合う。敬虔なクリスチャンでもあったという。反戦とは別に、個人的に関心のある分野なので、枠組みに触れられた気がし、さらに興味が増した。
あまり前情報も、先入観も入れずに観る方なのだけれど、今回は、小林正樹監督、五味川純平原作ということで、この先入観を大いに使った。
<一部>
新珠三千代と仲代達矢が夫婦となり、仲代達矢が、軍管理の鉱山に労務管理者として出向。酷い仕打ちを中国人労働者に行っている現場の長たちと軋轢が起きる。
<二部>
軍人でもない、民間人も理由をつけて中国人を処刑する。仲代達矢演じる梶は、中国人を庇った罰として、兵役免除を取り消され、前線に送られる。
「人間の條件」とは実に言い得た表現だと思う。反意語として…
戦争によって人間性がいかに失われるかじっくり描かれている。戦争映画、とくに邦画では、軍部の、内部の非人間的な描写が多いが、本作は、もうそこだけである。見たくない、日本人として認めたくないのだが、他国は仲間同士では暴力はなかったのか、他国も民間人を殺戮したではないか、と思ったとしても、自国のしてきたことに真っ正面から向き合った本作は、意義ある作品だと思う。戦争とは人間性を失うこと、それを自分ごととして考えること、貴重な作品である。
ひとたび戦争になれば、人間は変わってしまう。そして生還して、人間らしい生活に戻っても、一生その人でなしだった自分の悪霊から逃れることができない。
6部まで続きます。