ねまる

ゲキ×シネ「蛮幽鬼」のねまるのレビュー・感想・評価

ゲキ×シネ「蛮幽鬼」(2010年製作の映画)
4.0
ベスト オブ 堺雅人。
笑顔で殺す暗殺者。

笑顔という仮面が張り付いているみたい。
それでまた冷酷なキャラクターだから、これは堺雅人にしか出来ない役。

主演の上川隆也ももちろん良いんだけど、それを喰ってしまうほどの圧倒的なインパクト。

劇団☆新感線にしては、暗めな作品のテイストなんだけど、暗めが好きな私にはちょうど良い。

脇を固めるキャストでは、
稀浮名(演:山内圭哉)、音津空麿(演:粟根まこと)が印象的。
二人共、主人公の復讐相手だけど、それぞれキャラが立っていて、
シリアスムードでも面白い。
あと、稀道活(演:橋本じゅん)も、メイク含め最高。

とゆうか、キノウキナ、キノドウカツ、オトツノカラマロとか、昔っぽくて分かりにくい名前なのに響きが良くて、覚えやすい。

モンテクリスト伯をモデルにしているだけあって、テーマは復讐なわけだけど、
土門、サジ、美古都、刀衣、稀親子、大王などなどそれぞれの思いが交錯しているのが面白い。

復讐のためだけに、生きる男のその先には何があるのか?
サジはなぜ土門に協力するのか?

巻き込まれていく土門の許嫁、美古都と刀衣たち。

可愛すぎる方白ちゃんの早乙女さんが当時17歳なんて信じられるか?
着物ではない女形でも、布づかい(?)が美しすぎて、本当に女の子かと思った。

からの、美しくてカッコ良い殺陣のギャップが最高です。

いのうえ歌舞伎たまんねぇな!!


2023.8 再鑑賞(ネタバレ)
VIVANTを観ていたらサジが観たくなって。
やっぱり改めてベストオブ堺雅人。

というか、堺雅人自体はいつもすごいけど、この役柄を突きつけた脚本と演出と、それに応えた140%の堺雅人。
体育2がちょっと見えちゃうところも含めて頑張ったんだなあ、もあるし。

当時キャストしか見えてなかったけど、蛮幽鬼のお話自体も凄すぎる。
モンテ・クリスト伯をモチーフに、日本の宗教史を織り交ぜる構成がまず面白い。

土門が主人公で、復讐を果たして行くのに、それは気持ちいいのではなく、いずれも虚しさしかない。愛した人への想いさえ歪み、結局自らの手で復讐を果たすことも出来ない。

キノウキナ、カラマロ、ドウカツ、カラマロ父と、復讐という思いがただ目の前で連鎖して行く光景をどう見ただろうか。
そのために命を落としたペナンは。

友であった、キョウガネノシラベを誰が殺したのかという謎も、一転二転そこに転ぶかという着地で、謎明かしシーンの千葉哲也さんが良い。表情、動きを変えず、あそこまで黒に染まれるとは。

狼蘭族、名前のないローランの人たち。
刀衣という名前はきっと美古都がつけたんだね。強く戦い美しく舞う刀衣にぴったりの名前。同じ生まれでありながら、「誰かのために死んでいける幸せ、お前に分かるか」と突きつけられるサジ。「分かりたくもない」と返すけどそれは本心であって、でも本心でなくありたかったんだろうなという観客側から感じる寂しさ。

人を思うように操り、何人もの命を奪った笑顔の男が、なんだか哀しく見える。
同じ笑顔なのに、あの顔が哀しさに感じる。

「俺たちまだ監獄島だ」と土門がいう。いや土門はまだそこにいて、今の自分はもう復讐で目が曇った別人になっていたんだね。自分でそれを分かって、「この国を」と叫ぶ美古都を私たちは両手いっぱいにハグしたい。
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