Ricola

地獄の英雄のRicolaのレビュー・感想・評価

地獄の英雄(1951年製作の映画)
3.7
皮肉なことに、何も事件がない=平和なのであるが、それでは新聞のニュース欄はつまらなくて、話題性に欠けてしまう。
それじゃあ事実をもとに事件をでっちあげてしまえばいいのでは、ということでひとりの新聞記者が起こした行動はやがてムーブメントを巻き起こす…。

マスメディアと大衆への皮肉がたっぷり込められたブラックコメディ。
カーク・ダグラス演じる主人公の記者チャールズの独善的で自己顕示的な姿勢はもちろんのこと、被害者の妻らのエゴと無知な大衆の暴走が渦巻く。


この作品において、現状から抜け出したい人物は3人いる。
岩穴から抜け出したいレオ、敏腕記者としてもう一度一花咲かせたいチャールズ、夫であるレオへの愛が冷め退屈な生活から抜け出したがっているロレイン。
チャールズとロレインの思惑に、レオは知らないうちに振り回され利用されるのだ。

チャールズの行動に対して、ロレインは懐疑的でありつつも希望を見出すという葛藤を抱いてることが、ロレインがチャールズを一方的に見るという行為から考えられると思う。
まずは手前にロレイン、奥にチャールズという構図において。
新聞社に電話で「事件」を伝えるチャールズ。その建物のドアの前に立つロレイン。
奥で必死に話しているチャールズの一方で、ロレインの義父がハービーに感謝を伝えている様子を、彼女は複雑そうな表情で見つめながらりんごをかじっている。
また、車でやって来た野次馬の夫婦に道を聞かれた彼女を、車の中から開いた窓からとらえる。彼女の後ろからチャールズがゆっくりと近づいてきて、夫婦にどこから知ったのか尋ねると新聞からだと聞いて満足げである。ロレインはこのときはまだ懐疑心のほうが勝っているように思われる。

一方でチャールズが手前でロレインが奥にいるという構図のショットにおいても、ロレインがチャールズをやはり見ている。
チャールズが保安官や土木作業のリーダーと話しているシーンで、ロレインが画面の奥に入ってくるショットがある。
彼女は接客のために彼らの近くに来ただけのようだが、彼女の夫の大胆な救出方法を提案しているチャールズに思わず目を向ける。その後何事もなかったように画面から出ていく彼女を、カメラも追うのだ。
ロレインはこのようにチャールズの言動を見ており、それは彼のおかげで町がさかえたことに対する感謝はありつつも良心が痛むためである。

チャールズだけでなく、他の皆も社会的地位やお金、そして好奇心をただ埋めるためだけといった、目先の目的に気を取られてばかりである。つまりは自分自身のことしか考えていない。
それが悲劇を生み、本質的に彼らは結局何も得ることはないのだ。
Ricola

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