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時計じかけのオレンジのCANACOのレビュー・感想・評価

時計じかけのオレンジ(1971年製作の映画)
3.9
スタンリー・キューブリック監督による1971年製作作品。1968年に製作・公開された「2001年宇宙の旅」の次作。

高い美意識とクラシック音楽愛、そして激しい暴力性と機転を備えた不良少年・アレックス(15歳)は、市営住宅に両親と暮らしている。アレックスは少年ギャンググループ“ドルーグ”のリーダーで、仲間3人を引き連れて金持ちの家を襲撃をしたりレイプしたり、ホームレスに暴行したりと悪行三昧。担任も苦々しく思っていたが、ある事件を起こした日、アレックスだけが逮捕されてしまう。本作はそこから始まる異常な“更正”の物語で、「時計じかけのオレンジ」とは更正後の彼のことを指している。

何十年ぶりに観たが、驚くほどまだ先をいっていて、かつ今でも目を覆いたくなる残虐な作品だった。これほどハイセンスで、非人道的で、社会風刺をきかせながら罪と罰について問いかけてくる作品はない。

原作者はアンソニー・バージェス。バージェスは、実際に身重の妻を米軍脱走兵にレイプされた。さらに、自身が余命わずかと(誤診で)宣告された時期に、アルコール漬けの状態で書き上げた作品のうちの一作だ。

作家と出版社の間でトラブルになった、ラストが大きく変わる21章(第3部第7章)が入っていないver.の本をキューブリックは映画化した。

バージェスは圧倒的な被害者であるにもかかわらず、このポップなバイオレンス小説を書き上げた。それは暴力が憎いからで、21章を加筆しても、本書を「今のわたしはあのクズ本を嫌悪している」と語ったという。「暴力行為を文章にしたら、それはその行為を作り出したということなんだ」と。

しかし、原作のポップな文体と、キューブリックの演出はマッチしている。バージェスの執筆時のテンションとキューブリックの撮影時のテンションは一致していたのではないだろうか。だからこんなに残酷なのに全体の熱量が高く、今もキラキラしちゃってるんだと思う。マルコム・マクダウェルが完璧にアレックスを演じたのも大きい。
本作は大ヒットし、アレックスたちを真似る輩が急増したため1年で上映を禁止。キューブリックが他界する1999年までイギリスでは上映されなかったという。

自分は21章なしver.の原作しか読んでいないので違和感はなかったが、 21章を読んでみたいし、いつか誰か21章加筆ver.を撮ってほしい。キューブリックの壁は高いが、もしかしたら全く違うアレックスの物語が見られるかもしれない。しかも、未完の続編原稿が出てきたそうなので、そっちも読みたくてたまらない。

この映画に出てくる被害者の作家・ミスター・フランクの、復讐に燃える顔を映した白目アップ。あれどんな演技指導したんだよって思うけど、あの顔こそが、アンソニー・バージェスが伝えたかった“暴力への憎しみ”を一番表していたのかもしれない。
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