真鍋新一

八月十五日の動乱の真鍋新一のレビュー・感想・評価

八月十五日の動乱(1962年製作の映画)
3.6
同じ実話をもとにしているとはいえ、こんなに『日本のいちばん長い日』と似ていて良いものなのだろうか? 役者が違えば監督も違う。全然違う映画なのに演出まで似ているシーンがあった。そうなると、制作規模では比べるべくもないこちらも公開が数年早いということで作品の価値が上がる。

東宝版では完全にイッちゃった人たちの集団に描かれていたクーデター実行犯たちは、こちらではキレキレなのは大村文武ひとりで、あとは血肉の通った人間として描かれていることも好感が持てる。軍国主義に洗脳された人というより心の底から日本の将来を憂いている人なので、そこで同情してしまっては元も子もないが、知らず知らずのうちに普通の人がそっちへ行かされてしまう当時の空気感の恐ろしさがある。

そして主演の鶴田浩二の誠実ぶり。映画の外では死んでいった特攻隊や生き残った復員兵の声を代弁し続けた彼が、同じ気持ちで終戦工作に尽力する役を演じている。役者だから役に合わせて顔を作るのは当たり前のことなんだろうか。いや、それができるというだけで尊敬すべき人だと思う。

登場人物をまとめ、エピソードを削り、創作も交えて95分に収めた本作の見事さはもっと広く知られてほしい。
真鍋新一

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