イホウジン

市民ケーンのイホウジンのレビュー・感想・評価

市民ケーン(1941年製作の映画)
3.9
愛はカネで買えない

この映画は2つの意味でアメリカを代表する作品なのかもしれない。
ひとつは言わずもがな、今日のハリウッド的な撮影技法が確立されている点である。流れるように動くカメラからは、これが戦前の作品であることを一切感じさせない程の今日性を帯びている。シーンごとの接続の仕方にも様々な工夫が凝らされていて、それまでの映画に主流な出来事全体の断片を切り取ったような映像から、確かに部分ではあるけれどもその繋ぎ方で1本の軸を作るような、これもまた今日の映画に通ずる技術が採用されている。その意味で今作の革新性が後世に語り継がれるのは当然のことである。
もうひとつは、そのストーリーがまさしく「アメリカ」の姿を表現しているものであるからだ。資本主義という歴史的に“新しい”仕組みの下で“新しい”職業たるメディア人として財を成し、金にものを言わせて巨大な邸宅を建てようとする様は、ちょうど資本主義によって成り上がった帝国たるアメリカの姿そのものであろう。しかし、主人公が建てた自分のための邸宅がまるで宮殿のようであったように、どんなに個人が社会的に成功したとしてもそこに歴史的な根拠は無いのであり、故に常にその中心部には空洞が残り続ける。そしてそのメタファーとして「バラのつぼみ」が関わってくる。終盤の展開は、主人公がまさにその虚無を実感してしまったがために引き起こされたものと解釈できよう。
これだけ虚しい内容の映画が歴史的名作としてカウントされるのだから、ハリウッドという場の柔軟性には本当に驚かされるばかりである。
イホウジン

イホウジン