めしいらず

シン・レッド・ラインのめしいらずのレビュー・感想・評価

シン・レッド・ライン(1998年製作の映画)
4.4
ど真ん中から戦争を語ると言うよりも、敢えて周縁に留まって俯瞰的に戦争を見つめているような感覚。いくつも挟まれる鳥のショットが象徴的である。雄大なジャングルの中に分け入って殺したり殺されたりしている兵士たちの周囲にごく当たり前にある森羅万象、川のせせらぎ、風に揺れる草原、樹木や土や花の匂い、青い空と海、大地に息づく様々な生命。砲弾銃弾が行き交う戦闘行為と、そんなことに全く無関心な大自然との対比。人間都合の視点でしか描かれてこなかった戦争映画に欠落していた別の視点が示唆されているような気がする。戦争は人をどんな風に変えるか。戦争前の自分を保てるか。生きること。死ぬこと。愛について。大義について。やがてそれにも無感覚になっていく。兵士は戦争で身も心も大きく欠損する。戦争で人間の正気と狂気の間を隔てるのは一本の細くて赤い線。個々の内と外で起こる変化。死んでいった仲間。己の手が人を殺した感触。それと対照的に原住民の慎ましく穏やかな生活。戦闘の合間にある束の間の同胞たちの安息。主人公はそれをどう見ただろうか。自然が調和を保つように作用しようとも、それを乱しながら人間はこれからも生きて死んでいく。
今までは考えもしなかったことだけれど、見始めてすぐに”こんな戦争の描かれ方をずっと観てみたかった”とはたと気付かされたような気がした。哲学的に戦争を思索し見つめ直すような不思議な感覚が得も言われぬ。テレンス・マリックらしくマジカルな画の美しさも甚だ見事。長尺が全く気にならないほど引き込まれた。ドンパチ好きな戦争映画ファンは観ない方が吉だとは思う。
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