Jimmy

SAYURIのJimmyのレビュー・感想・評価

SAYURI(2005年製作の映画)
4.0
日本初公開時(2006年1月17日)に、Tジョイ大泉にて鑑賞。

私が本作を観た直後の印象は、突飛かもしれないが、二本映画『阿修羅城の瞳』で描かれた亜空間である。
本作は日本での物語ではあるものの、太平洋上空(アメリカと日本の間)にポッカリ浮かんだ亜ニッポンとでも言うべき不思議なイメージがフィルムに定着されていた。

本作に接した観客の誰もが違和感を覚えるはずの「英語主体のセリフ」についても、ロブ・マーシャル監督が自分の持つイメージを具現化するためには手段を選ばないことの表明に他ならない。
したがって、本作に東洋的なエキゾチズムを求めた観客は戸惑い、20世紀前半の日本や芸者の忠実な描写を求めた観客は(例えば、芸者の着付けがダラシナイなどと)怒るのである。

本作は、(原作及び脚色・監督・撮影・衣装デザインなど)ハリウッドスタッフにより製作された作品であること、中国・日本などアジアというくくりで選ばれた俳優が演じていることなどから、冷静に考えれば亜ニッポンの様相を呈するのは必然である。
また、ロブ・マーシャル監督がブロードウェイ出身であるため、踊りの才能重視でチャン・ツィイーを主演に選んだのも理解できるが、日本人観客の一人としては日本女優にも今後の奮起を期待したいところだ。
しかし、作品の冒頭からかなりの時間においてさゆりの幼少時代を演じた大後寿々花という女優の存在感には目を見張るものがあり、作品の中盤にさしかかる頃には「このままチャン・ツィイーは出てこないのか」と思ってしまうほどであり、監督からの信頼の厚さが窺える。

まだ監督2作目ではあるが、ロブ・マーシャルの作風として、ドラマ部分で女どうしの陰湿な争いを中心に据え、その陰湿さと対比させる様に踊り場面を華やかに演出するという『作品の組立て』が確立されたといってよい。
明暗のメリハリがはっきりしているため、作品を観終わった観客の脳裏に、華麗な舞踏シーン等が強烈なイメージとして残る。
これは前作『シカゴ』と同様、監督演出の狙いどおりであろう。

こうして我々は監督の術中に陥ることで、それを受け入れた時に映像芸術との対峙による陶酔が歓喜となる。
Jimmy

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