ワイドショット川岡

殺しが静かにやって来るのワイドショット川岡のネタバレレビュー・内容・結末

殺しが静かにやって来る(1968年製作の映画)
3.2

このレビューはネタバレを含みます

観終わった直後の感想は最悪の一言でした。
そりゃ正義がいつも勝つとは限らないけど、それを真正面からこんな胸くそ悪く描いたとして何の意味があるんだ? 当時よくあった西部劇の勧善懲悪路線へのアンチテーゼとかいっているが、初めて観た西部劇がこれだった人のこととか考えた? しんど!

その後、少し頭を冷やして考えると、この作品の伝えたかったことがうっすら見えかけてきたような気がします。当時のアメリカは法律の効力が弱く、自分の身は自分で守るしかない、まさに「自分が法律」であるような時代なため、その環境下で「生き残る」という形で勝ち続けてきたロコのような男がああいう、今の価値観で言えば鬼畜のような人間に成長することは必然なのかもしれないです。
法律もなければ、倫理や美徳の基準もバラバラな世界で、唯一手放しで信じられるのが「勝って生き残る」ことだった場合、愚直に義理を通すサイレンスと、自分の命と金をひたすら求めるロコのどちらが人間としてまともなのかは分からなくなりました。最後のテロップで示された「血は落とせない」という内容は、誰もが殺人者だった時代と現代が地続きにあることを感じさせてロマンがありますね。
語ることの尽きない非凡な作品だと思います。ただ、どうしても心から好きにはなれないので、もう一度観るとしたら相当先になりそうです。