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PASSIONのnowstickのレビュー・感想・評価

PASSION(2008年製作の映画)
4.3
濱口竜介監督が東京芸大の修士課程の修了作品として制作した映画。
濱口監督作品は数年前に「偶然と想像」を見たきりで、その時はあまりピンと来なかったが、近所の映画館で本作が再上映されると聞き、鑑賞。
結論、本作は自分が今年見た作品の中で、今のところ一番だと思う。

内容はスクリューボールコメディからコメディ要素を抜いたような作品だった。
スクリューボールコメディとは、不安定な設定に人格が破綻したような登場人物を複数配置して、話をゴロゴロと展開させていくという、トーキー映画初期に流行った手法だ。典型的なのだと「何股もかけてる色男が、それぞれの相手に嘘をついていった結果、嘘に嘘を重ねる羽目になり、どんどん歯止めが効かなくなる」みたいな話だ。
しかし、スクリューボールコメディは「登場人物の行動が複雑な事を利用して話を展開させていく」という手法を取っている以上、観客に「確かにこの登場人物だったら、そんな事やりかねないな〜」と思わせる必要がある。その分、登場人物が複雑な行動を取る「言い訳」としての「人物描写」がとてつもなく事細かくなり、スクリューボールコメディの名作は、単なる娯楽作品の域を超え、その人物描写とストーリー展開において「芸術」とも呼べる域に達している。

「こんなんだったら、スクリューボールコメディからコメディ要素を抜いて、ストーリー展開と人物描写だけで、芸術映画を撮ればいいじゃん!」と前々から自分は思っていたのだが、本作はそれを完璧に達成している。
「偶然と想像」にも似たようなスクリューボールコメディ感はあったが、それぞれの物語が短編で3本立ての映画であったため、話が単純で、あまり転がらずに終わってしまっていた。その点、本作は2時間以上話が転がり続ける為、見ていて全く飽きなかった。
また、明らかにコメディ映画では無いし、監督の意図からも外れるかもしれないが、自分は見てて「コイツら最悪やん!」と思いながら爆笑してしまった。

映像においても、みんな言ってるが、ラストの方の煙突とソファーの所での、固定カメラの長回しは素晴らしかった。

本当に良い映画だと思う。
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