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永遠に美しく…のnetfilmsのレビュー・感想・評価

永遠に美しく…(1992年製作の映画)
3.6
 1978年ブロードウェイ、人気女優だったが最近落ち目のマデリーン・アシュトン(メリル・ストリープ)主演のミュージカル『ソング・バード』。彼女の落ち目な姿をその目で確認しようと、旧友であるヘレン・シャープ(ゴールディ・ホーン)が訪れる。傍らには有名な美容外科医のアーネスト・メンヴィル(ブルース・ウィリス)の姿。ヘレンは晴れてメンヴィルと婚約し、幸せの絶頂にあった。ところが舞台上のマデリーンのカリスマ的オーラに誘惑されたアーネストはヘレンを捨て、あっさりとマデリーンに乗り換える。ヘレンにとって、マデリーンは大事なものを全て奪い去る魔性の女だった。7年後、ショックのあまりヘレンは過食に陥り激太りし、リハビリ施設へ送られる。さらに7年後、マデリーンとアーネストはビヴァリーヒルズの豪邸で暮らしていたが、2人の仲は完全に破綻していた。マデリーンは女優としてピークを過ぎた老齢に差し掛かり、有能な外科医だったアーネストは葬儀屋に落ちぶれていた。そんなある日、ヘレンから10数年振りに出版パーティの招待状が届く。若さと美しさに囚われた五十路女2人の若さをめぐる攻防。学生時代から犬猿の仲で、幾つになっても虚栄心が捨てられない悲しい性(さが)を持った女同士の見栄と意地の張り合いは、間で板挟みに遭ったアーネストの悲哀をこれでもかと誇張して描く。数多ある職業の中で、プライドや虚栄心の人一倍強い作家や女優という職業。彼女たちは互いに美貌を競い合い、老いに贖おうとする。ただひたすら見栄やプライドで生きる女たちは大枚を叩き、自然の流れである人間の生に逆行する。

 ある意味、裸よりも恥ずかしいんじゃないかと思うような衣装を着させられたイザベラ・ロッセリーニの怪演ぶりが素晴らしい。ラフール通り109、実年齢71歳にも関わらず、20代にも見える美貌を兼ね備えた女は、いかにも如何わしいピンク色の液体を魔法のドリンク剤として彼女たちに提供する。ゼメキス作品ではしばし気の強い女と気弱な男が登場するが、今作も例外ではない。有名な美容外科医のアーネストはその世界では高名な人間だが、既に落ち目となったマデリーン・アシュトン主演のミュージカルに憧れ、セレブ的私生活を謳歌する彼女に鼻の下を伸ばす。しかしマデリーンの裏の性格を知って夫婦生活はあっさりと破綻し、心労の絶えない男は一気に老け込む。当時『ダイ・ハード』シリーズという当たり役を手にし、飛ぶ鳥を落とす勢いだったブルース・ウィリスは今振り返っても明らかにミス・キャストに映る。白のタンクトップの裾から筋骨隆々の体を汗で光らせていたジョン・マクレーンの面影はここにはない。髪はすっかり白髪がまじり、顔に刻まれたシワに心労が滲む。彼はマデリーンに生気を吸い取られ、文字通り抜け殻のような家庭生活を送るのである。ファム・ファタールの妖しい魅力に騙され、代理殺人を請け負うまでは『ロジャー・ラビット』のようなフィルム・ノワール的展開を予感させるが、不老不死になったマデリーンは殺そうとしても殺せない。階段から突き落とそうが、至近距離から拳銃で撃とうが、彼女たちはゾンビのように何度でも蘇る。

 時には複雑骨折した箇所をねじって直したり、どてっ腹に開いた穴もアーネストのペンキで修復する。「メンテナンス」という言葉の本来の意味は「建築・土木構造物や自動車など機械類の整備・維持・保守・点検・手入れ」だが、ここでの彼女たちの若さを保とうとする作業自体を皮肉を込めてメンテナンスと称する。『バック・トゥ・ザ・フューチャー』シリーズにおいて、何度も時空の壁を超越してきたゼメキスは老いに抗う三角関係の悲哀をシニカルなユーモアで描く。だが代理殺人を請け負ったはずのメンヴィルが完全犯罪をしくじった所から物語は思わぬ方向へと動いて行く。そのきっかけとなるのは、メンヴィル夫妻の豪邸に作られた大階段に他ならない。ここでもゼメキスは物語の起点に「派手な落下」を用意する。手前でヘレンに電話をかけるメンヴィルの裏で前後逆さまでゆっくりと起き上がるマデリーンの様子はさながらホラー映画のようである。徐々に崩れていく顔と肉体の経年劣化を手掛けたのは、デヴィッド・クローネンバーグの『スキャナーズ』において、科学者の頭を爆発させた特殊メイクアップアーティストのディック・スミスである。クライマックス前、アインシュタインやマリリン・モンローやエルビス・プレスリーらが実際に生きているように振る舞うSFXは『フォレスト・ガンプ』前夜の当時のインダストリアル・ライト&マジックによる最新テクノロジーを披露する。クライマックスがまたしても「落下」であるというのが今振り返っても感慨深い。当時、メリル・ストリープは43歳だったが、今観ると後の『マンマ・ミーア!』や『マダム・フローレンス! 夢見るふたり』を予感させる演技を披露していたのだから凄い。
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