なべ

座頭市物語のなべのレビュー・感想・評価

座頭市物語(1962年製作の映画)
5.0
 午前十時の映画祭でかかると聞いて速攻予約。でも上映開始が9時半て!早起きは苦手なのに。iPhoneのスヌーズ機能のおかげで遅刻せずに済んだけどね。

 以下、古い映画なのでネタバレあります。

 全編が大好きでできている!
 座頭市はガキの頃からテレビで何本も観ている。そのせいか、話がごちゃまぜになっているんだけど、本作はちゃんと覚えてた。平手造酒が出てくるからだ。時代劇ファンなら知ってると思うが、彼は実在の人物。映画やドラマで数えきれないくらいフィーチャーされてきた人気の剣客だ。もちろん笹川の用心棒として飯岡との決闘で死んだのも事実。斬られた相手は市ではなかったろうけど。
 まだ眉間に皺のない天知茂が平手造酒を演じてるんだけど、これがすごくいい。クズなヤクザどもの中にあって孤高かつ儚げな輝きを放っているんだよね。
 平手造酒と座頭市、高みにある二人だからこそ互いに通じるものがあって、畏敬の念というか、今なら愛と呼んでもいいような心の交流が描かれているのだ。果てる時なんて後ろから抱きつくようなスタイルだよ。
「つまらん奴の手にかかるより、貴公に斬られたかった」死に際にそんなこと言うんだよ!倒れる平手造酒をそっと寝かせるように横たえる市の優しさがステキ。
 そうなの!あのクールで厭世的な座頭市が一作目ではかなり情感豊か。泣いちゃってるからね。

 三隅研次はこの後量産されることになるシリーズ時代劇の興隆と衰退の中心にいた監督だが、シネスコの左右をフルに使った大胆な構図や、メリハリの効いたわかりやすいストーリー、見せ場を心象的なものにする仕掛けと、ぼくはエンタメ時代劇のフォーマットをつくった先駆者だと思っている。観たことがない作品でも、監督が三隅研次ってだけで安心してレンタルできた監督だ。
 本作では最後の殺陣で、平手造酒の顔が市肩越しにあり、シネスコの画面ならアップで両者を捉えることができるのに、わざわざカットを割っていて、ほー!となった。斬った者と斬られた者それぞれの心情に寄るカメラがめちゃくちゃ熱いのだ。高尚なテーマを扱ってるわけでも、社会のあり様を告発するような作品でもないのに、確かなものに触れた満足感はどうだ⁉︎ いま、このレベルのアクション映画をつくれるセンスって邦画界にあるだろうか。1962年の作品の完成度を目の当たりにして、今の邦画がこうしたレガシーのその成れの果てだとしたら、絶望しかないなと思い知ったのだった。
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