イホウジン

奇跡のイホウジンのレビュー・感想・評価

奇跡(1954年製作の映画)
4.0
信仰は自然か?制度か?

限られた舞台と各々の役割が明確に割り振られている人物設定からは、映画というより演劇に近いものを感じ取ることができる。故に宗教をめぐる壮大な問題をテーマとしている割に、その答えは比較的明確に描かれるし、それに至る人物も物語中盤から誰にでも分かるように表現されている。シンプルながら深いテーマ性を帯びた映画だ。
ラスト以外のほぼ全体で展開されるのは、キリスト教の宗派同士の対立と、それに巻き込まれる人々の苦労だ。ある人は対立宗派の女性との結婚を望み、ある人は自身の信仰の無さに苦しみ、またある人は自分の信心に対する自信を失っていく。そして1人は信仰を突き詰めた結果、キリストの精神をを体に宿し、それが周囲からは精神異常とみなされてしまう。
そんな泥沼の制度の中で、その「キリスト」自身と一家の孫だけが、それに囚われることなく、自然かつ自由な心で神に対する信仰を表明する。教会や牧師などあらゆる制度を挟まない純粋な[神ー人]の関係性は、結果として前者の混沌に対する答えを一瞬で導き出すことに成功する。それはまさに文字通りの「奇跡」であると同時に、神を信仰する行為そのものの結実としての「奇跡」とも言える出来事であっただろう。
それ故に、今作は別に制度的な信仰を批判しそうでない自然なるものへの回帰を目指す映画というよりは、その両者のズレとせめぎ合いの中で生じる人間のどうしようもなさと美しさを感じるための映画であると位置づけることができるだろう。
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