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奇跡のandesのレビュー・感想・評価

奇跡(1954年製作の映画)
4.7
確かに「キリスト教」の映画であるし、「信仰」の映画ではある。ただ、それ以上に「人間」を真摯に捉えた傑作である。そして、題名通り、映画史に残る奇跡的な作品である。
この衝撃的な作品に対して、どんな賛美も陳腐に思えるほど、映画でしか成し得ない感動が詰まっている。会話劇ながら映像的に進行する物語はある種、映画の「正解」を出している。音、照明、カメラ、演技と一分の隙もない。
映画のほぼ全カット、それだけで息を呑む画面が提示される。カメラを意識させないワンカットが不気味に、そして崇高に続いていく。テンポは現実より一拍遅い(歩くシーンが分かりやすい)、故に画面に妙なテンションが生まれる。
劇中、誰もが予想できる「奇跡」が描かれるが、それ自体はさして重要ではない。どんなに信仰があれども「不可能」を信じているほとんどの人間に対して、「可能」を無邪気に口にする存在。そして、実は小さな「奇跡」自体は既に起きているのである。人間同士の再生や修復、不完全さや尊さまで鮮やかに描ききっている。
映像の素晴らしさは筆舌に尽くしがたい。はためく洗濯物、車のライト、死産と葬儀のシーンなど頭に焼き付くカットが目白押し。衝撃的な「キスシーン」がある映画でもある。美しい作品である。
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