浦切三語

奇跡の浦切三語のレビュー・感想・評価

奇跡(1954年製作の映画)
3.8
ズームをほとんど使わず、フォローとパンのみの上品すぎる長回しの連続で語られる物語は、屋内撮影が多くを占めるにも関わらず、その劇的にしてさりげない陰影効果やシンメトリックな人物配置、さらには中盤の屋内シーンにおいて顕著な「密かに聞こえる風切り音」に始まる環境音の存在感によって、驚くほどに場面が異化されている。室内を舞台にしているにも関わらず、まるで荒涼とした大地に放り出された人間たちの、行く当てのない旅路であるかのように描かれるホームドラマ。そうした、ある種のファンタジー性を獲得した画面の中で描かれる「信仰と救い」の物語。同じデンマークの巨匠であるトリアーの『奇跡の海』にメチャクチャ影響を与えているのがわかる。

個人的にこの映画を見て思ったのは「歎異抄」みたいな話だなってことですね。「善人なをもって往生を遂ぐ、いわんや悪人をや」……自力が廃れるのに気づかず「俺は神を理解してる」とばかりに神様神様と口だけ達者な一家の長。それとは反対に神学論に傾倒しすぎたがあまり気を病んでしまい、時間と空間と光の最中に神の痕跡を垣間見てもなお、神に振り回されて自力が廃れて「他力本願(古き約束に基づいた神の救済)」にすがることに気付くことのできたヨハンネス。そのヨハンネスの言葉に応じるかの如く画面の中で、我々観客の目の前で起こる、まさに「奇跡」としか言えないシーンの緊迫感たるや、物凄いものがある。

あと、この映画も「あるじ」と同じく「時計の針」が象徴的に使われているけど、監督お気に入りの演出なんだろうか。
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