ジャン黒糖

カンパニー・メンのジャン黒糖のレビュー・感想・評価

カンパニー・メン(2010年製作の映画)
3.7
リーマンショック後の不景気により解雇された元高給取りの男の再生を描いたヒューマンドラマ。

【物語】
リーマンショック後の不景気により、造船業をはじめとするコングロマリット大企業GTXは、雇用確保よりも株価低迷回避を優先するため大規模な解雇を断行。
販売部長として順風満帆なエリートサラリーマン生活を送っていたボビーは突然の解雇通告に動揺を隠せず、なんとかこれまでの生活を維持しているかのように取り繕いつつ、再就職支援センターに向かう。
一方、社長の意向に反対していた副社長にして人格者のジーン、溶接工から叩き上げで重役に上り詰めたフィルもまた、解雇通告されてしまう。
それぞれが自身の、そして他者の解雇を通じて、自分にとって本当に大切な物とはなにか、どう生きるか、見つめ直す。

【感想】
サラリーマンとしてはとても身につまされる話だった。

解雇直後のボビーは自分自身のキャリア、そして家・車・家族、とこれまで築き上げてきたものに対しプライドを持っていた人物だと思う。
解雇手当も先が見えている、いずれ住宅ローンの返済が厳しくなる、妻はパートに行く、と徐々に厳しい状況になっても、当の本人は、世は不景気といえど37歳にして一流企業でカリフォルニア全域を任される販売部長に務めていたというそのプライドが、結果的に再就職を阻んでいく。

再就職支援センターでは、自分と同じく解雇された人たちが、支援担当者に鼓舞されて以下の言葉を立って復唱する姿を見て対岸の火事と思っているのか、バカバカしいと鼻で笑う。
「私は必ず勝つ!なぜか。なぜならわたしには信念と勇気と熱意があるからだ!」

また、かつて勤めていた会社の競合他社に面接行く際、担当者にムキになって「私こそが”非常に”適役な応募者だ!」と叫ぶ場面は、ハタから観る分には滑稽で痛々しい。
ただ、もし自分が当事者だったら、と考えると居心地が悪い。

人が持ち合わせるものに、見栄<プライド<誇り、と位があるとしたら、解雇前後のボビーはプライドの塊。
37歳で妻子持ち・ローン有りの男に比べたら20代の方が会社としても保険料などの負担が少なく済むというプレッシャーも募ってくる。
やがて自身の愛車やゴルフクラブ会員などを手放さないといけない状況にまで追い込まれたボビーに残っていたのは、もはや周囲に恥をかきたくないという見栄だけだった。

では、彼にとっての”誇り”とはなにか。

物語はボビーを軸に描きつつ、他3人の男の仕事に対する向き合い方、”誇り”が描かれる。

たとえばボビーの義兄は地元で建築業を営んでいる親方。
大企業のエリート街道をひた走っていたボビーとは対照的だが、彼は一緒に働く仲間が食っていけるよう、たとえ割安でも工事を請け負う。
そんな彼がボビーに語るセリフは実に味わい深い。この映画、イチイチセリフが良い。
「良い時も悪い時もある。結果が出るのは最後だ。」

ボビーと同じくGTXで働いていた副社長ジーンは会社創設時からのメンバーで、いまや閉鎖された造船所をバックに、「1日3交代2,000人、計6,000人があそこで働いていた。貸借対照表なんかよりももっと意味のあるものを作っていた」と語る。
また、叩き上げで重役となったフィンも「週60時間溶接していた」と当時を語る。

それぞれ仕事を語る姿には、紛れもなく(かつての)仕事に対する”誇り”を感じた。

では、改めて話を戻してボビーにとっての”誇り”とはなにか。
ここでちょっと残念というか、んーちょっと引っ掛かってしまったことがある。

たしかに、解雇によって大切な車も、家も、ゴルフクラブ仲間も失ったかもしれない。疎遠だった父にも頼み込まなければいけない。
ただ、プライドも見栄も捨てた彼にそれでも残るものがある。そんな彼を真摯に見捨てず気に掛ける元上司や義兄、支える妻や息子だ、それこそが彼にとっての”誇り”…。
という展開はヒューマンドラマらしく、観ていて心温まる。

では家族はじめ周囲の人間たちの心温まる支えうんぬんは一旦置いといて、肝心の”カンパニーマン”としてボビー自身、仕事に対して信念と勇気と熱意を傾けるものはなにか。
そこが劇中の描かれ方として若干曖昧な気がしなくもないのだ。

なぜ副社長のジーンはボビーを気にかけているのか。
解雇者数千人出ているにも関わらずなぜ他の誰でもなく、ボビーを気にかけていたのか。
そこにもし解雇前のジーンとボビーの関係性や、ジーンから見たボビーの仕事に対するバックストーリーが描かれていたらもう少し印象は変わったかもしれない。

それらが描かれないため、殊仕事に関しては結局のところ履歴書どおりの「勤続12年、3年カリフォルニア全域で販売部長を務めた」という彼のプライドだけが残り、他の業界・業種でもない、そこでしか満たせない"誇り"が描かれていればラストの彼のとある決断ももう少しグッときた。惜しい。

ただ、同じく働くサラリーマンとしては、解雇通告されたとき自分だったらどう立ち回るか、とか家や職を失ってでも自分に誇れるものはなにか、とか考えずにはいられない、非常に身につまされる、バンバン刺さる映画だった。
気になる点もあるにはあるけど、ただ観終わったあとには考えさせられ、そして心温まる。自分は好きです!おすすめです!
ジャン黒糖

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