ブタブタ

エレファント・マンのブタブタのネタバレレビュー・内容・結末

エレファント・マン(1980年製作の映画)
5.0

このレビューはネタバレを含みます

当時はヒューマニズム大作、感動作品と宣伝されてましたが実際見て「何か違うのでは」と言う違和感は何年も過ぎた後様々なこの作品の映画評そして数々のデヴィッド・リンチ作品を見てから改めてエレファントマンを見てみると『エレファントマン』とはジョン・メリックと言う人物とその生涯を描くと言うよりヴィクトリア朝末期の英国ロンドン、繁栄と頽廃の坩堝である一つの都市全体が主人公にも思えました。
ブレードランナーが常に酸性雨が降り注ぐ未来のロサンゼルスと言う異世界を再現したサイバーパンクなのに対してエレファントマンは常に蒸気が吹き上がる過去のロンドンと言う異世界を再現したスチームパンク。
レプリカントと言う人を超えた異形の存在と畸形と言う好奇の目に晒される異形の存在。
繰り返し挿入される機械と肉が融合する様なイメージ。
臓器の如くうねるガス管や人力の道路舗装機。
大火傷を負った男に対する焼き鏝を使った拷問の様な治療。
あちこちで吹き上がる蒸気と道端にぶら下げられた牛肉。
そして見世物小屋のエレファントマンをはじめとする怪力男・髭女・シャム双生児ら畸形人間達。

アランムーア『フロム・ヘル』(映画は未見)は切り裂きジャックを主人公にジャックの正体であるヴィクトリア女王の主治医ガル博士がエレファントマン=ジョン・メリックと面会する場面があり、あの時代エレファントマンは有名人であり彼と面会する事は社交界では1種のステータスの様になっており、切り裂きジャックとエレファントマンの邂逅『エレファントマン』のモノクロの陰鬱な世界には切り裂きジャックも当然存在していて普通の市民として何食わぬ顔で通り過ぎていたのかもと想像すると更に異空間都市を描くと言うスチームパンクとしての側面が際だってより幻想的で怪奇的。
これはヒューマンドラマではなくエレファントマンが最初に現れた見世物小屋の様にこの映画自体がグロテスクで悪趣味な見世物小屋に見えて、けして貶している訳ではなくその方が作品として素晴らしいと思いました。

ラスト近くのエレファントマンが正装して豪華な劇場で観劇する場面。
暗く陰鬱なロンドンとは打って変わってモノクロ映像で有りながらキラキラと輝く極彩色の夢の様な世界。
それ迄の地獄の様な現実、エレファントマン=ジョン・メリックの悲惨な人生、地獄行の果てにようやく手に入れた穏やかな生活。
その終着点とも言うべき場所の象徴があの劇場の幻想的・天国の様な夢の世界だったのだと思います。
でもそれは飽く迄舞台上の出来事で芝居が終われば正に夢の様に消えてしまう。
エレファントマンは感動作ではないと言いましたが、このラストは非常に哀しく切なくなりました。
エレファントマンが保護者であるトリーヴス医師に興奮醒めやらぬ様子で観劇の感想、どれ程自分が感動したかを語り「また行こう」とトリーヴス医師と約束したにも関わらず自ら死を選んだ理由はエレファントマン自身にしか分かりませんが『イレイザーヘッド』のラジエーターの劇場で唄われたあの歌「天国では全て約束されている」を思い起こしました。
肉体の畸形のせいで蹲ってしか眠る事が出来ない、仰向けに横たわって眠ると窒息死してしまうエレファントマンが敢えて横たわって眠ったのは最後に普通の人の様に眠る、悪夢ではない夢を見る為、劇場で見た夢の世界「天国では全て約束されている」あの場所へ行くためだったのではないかと思いました。
眠りについたエレファントマンから場面は宇宙空間に変わりエレファントマンの母親のアップと台詞で映画は終わります。
恐らくそこはエレファントマンの魂がたどり着いた世界。
幼くして別れた母親も『イレイザーヘッド』の主人公も『ツインピークス』のローラ・パーマーも『砂の惑星』で超人間クイサッツ・ハデラッハとなったポウル・モアディブもいてエレファントマンを迎え入れてくれる。
「天国では全て約束されている」

『イレイザーヘッド』『 エレファントマン』それに続く『DUNE砂の惑星』はモノクロの超大作で初期三部作完結、リンチの集大成となる傑作となる筈でしたがそれは夢の世界でした。
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