カラン

新釈四谷怪談のカランのレビュー・感想・評価

新釈四谷怪談(1949年製作の映画)
5.0

四谷怪談を映画にしたものはたくさんある。本作はそうした四谷怪談シリーズの現存しているもののなかで、最初期の1本なのかもしれないが、不詳である。様々に脚色される中で、直助という小悪党が、伊右衛門の中に融合されたり、お梅の父に融合されたり、とヴィランの役回りが動きやすいようである。本作は、全面的にそれぞれのキャラクターに特有の役回りを割り当て、圧縮せずに展開しているので、上映時間は158分と長いが、ラストは圧倒的である。

田中絹代が1人2役で、お岩とお梅を演じており、その1人2役というキャスティングも映画のストーリーテリングにおいて重大な意味作用をする。おそらく、この映画のお岩は鑑賞者を驚かし怖がらせるよりも、まず民谷伊右衛門を狂乱させるという、ある意味で当然の機能を果たす設定になっていると思われる。そこが本作を今どきのホラーとはいくらか異らせており、以後の四谷怪談シリーズとも異なったものとしているようだ。客を怖がらせることにばかり向かって映画を劣化させるのは悪しき商業主義である。

キャラクターを圧縮なしで全面的に展開し、最終的に全てを燃やすというラストの大団円のカタルシスは、例えばシェークスピアのような古典の風格すらあり、素晴らしい。

大刀であれ、小刀であれ、斬りかかると必ずドタバタになるのは、木下恵介的殺陣なのか?

1人2役のシーンを全部見終わってから見直したのだが、クローネンバーグの『戦慄の絆』(1988)のジェレミー・アイアンズの1人2役よりもずっと上手くできている。マイケル・マンは『ヒート』(1995)でアル・パチーノとロバート・デニーロが一緒に演技していないのにまるで一緒にそこに居るかのように撮っていた。それぐらいのことを1949に木下恵介は既にやっていたのである。お袖がうちわを扇ぐ。お岩の鬢の黒髪が揺れる。時間差があるようだ。影の出方もおかしいかも。これは、何度か巻き戻して繰り返し注視して初めてそんな気がした、という話である。

松竹のセットは大したことないのだが、いい感じに写している。いつもの木下組。鬼火も出てた。

レンタルDVD。かなり画質は悪い。揺らいだり、ノイズが弾けている。音は悪くない。公開時同様に前編と後編に分かれている。

55円宅配GEO、20分の15と16。
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