櫻イミト

バンパイア・イン・ベニスの櫻イミトのレビュー・感想・評価

バンパイア・イン・ベニス(1988年製作の映画)
3.5
クラウス・キンスキー主演「ノスフェラトゥ」(1979)の続編として企画されたが、制作過程で変更が繰り返され別物になった耽美的吸血鬼映画。全編ベニス(ベネツィア)ロケ。主題曲はヴァンゲリス。

吸血鬼研究のカタラノ博士(クリストファー・プラマー)はべニスの名門カニンス家に招かれ、この家に代々吸血鬼の呪いがあることを知る。その頃、死んだはずのノスフェラトゥ(クラウス・キンスキー)がべニスに出現、カニンス家のマリア(アン・ネクト)に魔の手を伸ばそうとしていた。。。

ベニスの古い街並みと吸血鬼の組み合わせがベストマッチで雰囲気は最高。映像は美しく屋敷の美術もゴシックなムードにあふれている。なのだが、主役であるはずのカタラノ博士がなんと途中退場してしまう。演ずるのは「サウンド・オブ・ミュージック」(1965)のトラップ大佐役が有名なクリストファー・プラマーで、とても良い演技をしていたので残念。そして、それ以後からシナリオは破綻していき何とも中途半端な終幕を迎える。

これは狂人キンスキーによる製作事故案件では?と、調べてみたところ案の定だった。監督が二回交代し最終的にはプロデューサーのアウグスト・カミニートが自ら初監督、キャスト陣もキンスキーの我がままにより途中交代を余儀なくされ、そうこうしているうちにスケジュールも予算も破綻。結局、取り終えたフィルムを再構築して現在の形になったとの事。本作のキンスキーは“永遠の命を持つ強姦魔”のようだった。人知を超えた理不尽な恐怖を体現していたとは言える。

中盤までの耽美ゴシックなロケーションと映像の美しさは格別なので、それだけでも観る価値はある一本。
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