イホウジン

スター・ウォーズ エピソード3/シスの復讐のイホウジンのレビュー・感想・評価

3.9
【2020年1本目】
政治の混沌は人生の全てを歪める。最早そこには善悪など存在しない。

アナキン三部作における重要なポイントは、ジェダイと暗黒面の線引きの曖昧さであろう。確かにアナキンはフォースを過信したために闇堕ちしたとも言えるが、それと同様にその他のジェダイも自らの地位を過信していたようだ。政治的な変革の兆しの中で登場した最強のジェダイは、ジェダイたちが過剰に闇堕ちを恐れるあまり不満を積み重ねてしまった。ある程度の欲望は人間の活動に不可欠であるという事実を直視しなかったジェダイたちのツケは、幾重もの裏切りによってまんまとシスに利用されてしまった。EP3における善悪の曖昧さは、まさにこの三部作が主題にしようとしたものだったのだろう。全編に渡り切ない展開が続く。
アナキン三部作の全体を通してとにかく可哀想なのはパドメである。対話による平和を誰よりも重んじていたはずなのに、自らも加担した民主的なプロセスによって自由なき独裁が成立してしまったのだからさぞ悔しいであろう。そのうえ最愛のパートナーはその政治的な混沌と旧態依然なジェダイのシステムへの不満が最悪の方向に行ってしまう。パドメの最期は無理矢理感があって微妙だが、EP3の中で生きる気力を失うのもそれなりに納得できる。
そしてEP1~6を観終えると、アナキンとルークの類似と違いを検討することができる。結局のところアナキンにあってルークになかったものは、“システムの束縛”であろう。確かにジェダイマスターへの道がある程度示されているのは非常に良いことではあるが、そのシステムからの逸脱を容認出来ない状況は彼らのような短気な人たちには難しいものだっただろう。ルークの場合は修行だけでなく隣人愛を通しそれを受け入れることでジェダイを強化していったが、根拠なき博愛の呪縛に苦しめられたアナキンは結果的に隣人愛をも失った独善へと堕落してしまった。そう考えるとアナキンとルークは表裏一体な存在であり、ある意味ジェダイのシステムが崩壊した中で育ったルークは良かったのかもしれない。またEP6における親子と皇帝のやり取りも、ルークはジェダイとしてシスを討伐したというよりはアナキンの息子のルーク自身として倒したということになろう。ルークが皇帝に苦しめられる時にアナキンが自我を取り戻したのも、良くも悪くもその独善的な性格が功を奏したのであろう。

EP3単体で観ると、どうしてもEP4に向けてのパーツを埋めていく作業が中心となってしまって楽しめない部分があった。特にラストはオリジナル三部作への接続のためにももう少し重点的に取り扱っても良かったのではないだろうか。またEP1,2であれだけ重要な立ち位置にいたパドメが急に隠居しているのも残念である。政治劇としてのアナキン三部作の魅力が減ってしまった。確かに今作の主役はアナキンだが、意外とこの三部作は展開が雑になってる部分がある。
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