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死闘の伝説のドントのレビュー・感想・評価

死闘の伝説(1963年製作の映画)
4.0
 1963年。北海道のある村、今ではみんな平和に暮らしているここで戦時中に起きたムラ意識や戦時のフラストレーションなどが重なって爆発した惨劇を描く。木下恵介監督ブチギレの、陰湿と暴力と怒りが渦巻く一本。
 ほのぼのした村のカラーの風景から一転、主な舞台は昭和20年戦争末期。映像はモノクロになる。肌や川が異様に白かったり、顔の翳りや草が真っ黒だったりするのはまるで葬式のようである。そういえば執拗に鳴り響くビヨンビヨン(口にくわえてはじく、あのユーモラスな音のやつ)も経文の出来損ないみたいに聞こえてこないだろうか。
 そうこれは戦時日本のどこかしらで起きたであろう出来事、あるいは日本全体の濃縮還元図であり、その中で死んだ人への弔いなのである。「けっ、戦時だってのによ!」「非国民!」といった今やパロディですら聞かぬ言葉が吐かれ、そんな意識や苛々がつのった末に集団が狂って人が死んだりする。そういうことを一切の手加減なしに豪速球で投げてくる作品である。お前ら皆そうだったろうが、と。
 1963年と言えば高度経済成長のど真ん中、そんな時期に「弱い者が死んでいったろう」「忘れたとは言わせんぞ」「お前ら人間をやっているか?」とぶつけてくるこの力強さ。60年経ったけれどその迫力は衰えないし、2022年も日本人はあまり変わってないように思える。いやはや。
 顔は綺麗だけどクソの役にも立たない男を加藤剛、人としてまっとうに生きるジジイを加藤嘉が演じていてこれが絶妙によい。さらに「男に負けてない女」を岩下志麻と加賀まりこが演じていてこれも強い。加賀まりこなんか猟銃をぶっぱなすのだ。1963年にこの「女の強さ」って結構画期的なのではなかろうか。
 序盤10分ほどはちょい退屈だが、その後からは移動ショットやグンと迫るアップ、極端なほどのロングショットや「追われる人」が重ね焼きされたりと大変チャレンジングな撮影・演出が幾つもあり目を見張るばかり。暴力描写も簡素ゆえにおぞましい。加藤剛の弟が頭を殴られる場面なんか相当ですよこれは。すごいものを見せつけられた、といった気持ちになる。
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