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パンズ・ラビリンスのsymのネタバレレビュー・内容・結末

パンズ・ラビリンス(2006年製作の映画)
4.6

このレビューはネタバレを含みます

※すごい長くなっちゃいました…感想…

主人公の少女オフェリアが
すごく純粋で健気で…
胸が締め付けられました。

まず前提として
ポスターとかのキービジュアルは
すごく美しいんだけど、
あれは美しい部分だけを切り取ったもので
物語自体は単純なハッピーエンドではないので
冒険モノのワクワク感とかを求めてる人は
最後の展開に打ちのめされるかもしれません。

全体的に王国や迷宮のデザイン、
クリーチャーのビジュアルが、
綺麗なんだけど不気味さもあり、
それでいて愛嬌もあり、
個人的に大好きです。
ファンタジーでも少し不気味だったり
奇妙だったりするのが好みです。

物語としては
空想を現実と錯覚するようなつくりに
なっていて、どちらとも取れる。
「大人には見えない」系なのかとも
思った(思いたかった)けど、
・オフェリアがいないときに現実世界が進む
・パンの言動の一貫性がない
(見守っているかと思えば急に怒ったり、もう現れないと言ったのに、チャンスを与えると言ったり)
・マンドラゴラが見つかったときの大人たちの反応とオフェリアの反応の違い
・メルセデスがオフェリアを探しに来た時、
部屋に残されたチョークの落書きのドアが見える
・迷宮まで追いかけてきたビダル大尉に対して
道が閉ざされたはずなのに、すぐに追いついてくる
・迷宮の奥でビダル大尉から見たオフェリアは、1人で話している
・息絶えるときのオフェリアの様子

この辺から考えると、
迷宮のような遺跡は実在するけど
やっぱり王国は、オフェリアが作り出した世界なんだなって。
筋が通らないような部分も、
子どもが考えた物語で、
現実じゃないからなんだろうなと。

そう思うと一見、救いがないようにも見える。
けどオフェリアは最期、
『自分の選択を肯定してもらえた』ことで
微笑みを浮かべていたし
彼女の魂だけは救われたのかもしれません。
オフェリアは、きっとずっと
誰かに肯定されたかったんだと思うんです。
パンが最後に「あなたは正しい選択をした」
と言ったことで
初めて誰かに肯定されたんですよね。

でもこの話の切ないところは
現実世界では誰もオフェリアのことを
肯定してくれなかったっていうところ
なんですよ。

一番近くで寄り添ってくれたのは
母親でもなくメルセデスでした。
(それも切ねえ話です)
個人的にメルセデスがすごく好きです。
「『たかが女』と思われていたから、できた」
静かに心を燃やし続けていた彼女は、
卑怯でも何でもなく、かっこよかったです。

母親のカルメンは満身創痍で、
ビダル大尉を気にしてばかりいて
オフェリアを気にかける余裕もない。
我が子を愛していただろうとは思います。
身をもって知っているからこそ、
色んなものを諦めてきたからこそ、
オフェリアには現実を見て欲しいと思う
親心もあったのかもしれません。
きっとビダル大尉が息子にしか興味がないのも
気づいていたと思います。
「魔法なんか存在しないの!」
って自分自身にも言い聞かせているようで
見ていてつらかったです。

ビダル大尉は死んだ父親に縛られていて
これもある種の呪いですよね。
ただ父親になりたかった訳でも、
息子が欲しかった訳でもなくて
『こうあるべき』という人間像に
父親が死んだ後も
ずっと縛られて身動きが取れなかった。
それしか知らないから。
とにかく自分の息子をつくってレールを敷いて
自分と同じような道を辿らせたいという。
元より冷酷な人間なのか
時代が、戦争が、
そうさせたのか分かりませんが
哀れだなとは思います。
だからと言って彼の言動は許せないですけど。
あと自分の部隊の人数すら把握してないのも、
どう考えても駄目でしょ。
大尉の人生から学ぶことは、
親が子どもに自分の業を背負わせたら
終わりってことですね。
親は親、子は子、別の人生があるんですから。

オフェリアは、メルセデスとゲリラが
通じていることも見抜いたし
ちゃんと自分で考えて判断して
切り抜けられる賢い子でした。
空想の世界に逃げていたというより
物語の世界を心の拠り所に
していたんだと思います。
そうすることで自分を保っていた。
現実世界には居場所がなかったから。

オフェリアがまだお腹の中にいる弟に
話し掛ける場面が、もう健気で切なくて。
「ママの笑顔を見れば、
あなたもママを愛するわ」
母親が我が子に語り掛けているようで、
なんて愛情深い子なんだろう。
ああ、オフェリアも母親に
こんなふうに愛されたかったんだろうなって。
(ここで号泣)
弟が生まれた後も、
母親が亡くなる原因になった弟に対して、
憎らしいと思う気持ちが
あってもおかしくないのに、
身代わりに差し出すことはしなかった。

あなたは間違ってなかったよ。
頑張ったよ、報われたんだよって、
オフェリアに伝えてあげたい。
抱き締めてあげたい。
彼女はヒロインというより
正しい道を追い求めたヒーローでした。
どうか王国では幸せになってほしいと
願わずにはいられません。
sym

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