KANA

クンドゥンのKANAのレビュー・感想・評価

クンドゥン(1997年製作の映画)
3.7

チベット仏教の最高指導者、ダライ・ラマ14世の半生を映画化。
(「クンドゥン」はチベット人が敬愛と親愛を込めて呼ぶ時の尊称)
スコセッシが監督ということで興味が湧いたのだけと、エンタメとしてというより勉強になってとてもよかった。

逝去したダライ・ラマ13世の生まれ変わりと認められた、寒村に住む幼い少年ハモ。
そこから首都ラサの宮殿に移り、チベットの指導者として修行を積みながら成長する。
やがて中国が侵攻を開始し、彼は非暴力で対抗するが・・。

演出はとても淡々としてるけど、ダライ・ラマ本人が脚本執筆に協力してるので限りなく事実に忠実に描かれてるはず。
ヒマラヤ山脈を臨む寒々しい大自然、衣裳、建物、儀式、輪廻転生を始めとした宗教観など、エキゾチックなチベット文化にどっぷり浸れる。
中でも印象的なのはお父さんが亡くなった際に描写される鳥葬シーン。
"万物は宇宙に帰属する"とか"自然との共生"といった仏教観を生々しく感じられた。
ロングショット、クローズアップ、陰影など、ロジャー・ディーキンスによる撮影テクも哲学的な深みを与えてると思う。

毛沢東との会談も興味深かった。
思いのほか人情味を示すマオさんの態度に少しビックリ。
でも
「宗教は民にとって阿片のような麻薬ですよ」
と最後チクリと刺すところがやっぱり、となる。

中国側の要求に簡単に応じない上に、非暴力を貫こうとするダライ・ラマの思慮深い姿はとても勇ましく見えた。つまりかっこいい。
と同時に彼を神聖化し過ぎず、お菓子を美味しそうに頬張ったりトイレに行ったりのシーンも挟んで生身の人間らしく描いていて、親近感が湧く。

インドへの亡命シーンと同時に挿入される砂のマンダラ画面。
これが本当に美しい。まさにチベット美。
でも、出来たと思ったら一瞬で手で払い除けられグシャグシャに。
も、勿体無い!
"諸行無常"のメタファーということか…

スコセッシは本作の大衆受けは一切狙ってなかったそう。
エンドクレジットで「亡き母に捧ぐ」とあるので、クンドゥンの慈悲深い愛を亡くなって間もないマンマの愛に重ね合わせたのかなと思う。
『グッドフェローズ』でジョー・ペシのお母さん役で出てたあのチャーミングな方…感慨深いなぁ。 
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