宇尾地米人

バッド・スパイラル 運命の罠の宇尾地米人のレビュー・感想・評価

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 やり手の野心家弁護士はある晩、酒に酔ったせいで秘書に関係を迫り、レイプしてしまう。その後、謝罪を受け入れられず、口封じがてら彼女をクビにしてしまう。連邦判事への出世も決まっていて、スキャンダルの発覚を恐れたんですね。もちろん、秘書の彼女は黙っていなかった。キャリアを捨てなければ、マスコミに公表してやると脅迫しました。地位、名声、豪邸、家族、破滅を恐れたこの弁護士さんは、ある日駐車場で出会った若者に秘書の暗殺を依頼するが…。

 『ミュート・ウィットネス』のアンソニー・ウォラー監督、前作はマリオ・バーヴァやアルジェント風の怖さがありましたが、今度はヒッチコックやウィリアム・ワイラーを思わせるサスペンスとスリル。製作総指揮と脚本のウィリアム・デイヴィスは『ツインズ』や『ジョニー・イングリッシュ』など、コメディを得意とするシナリオライターです。撮影にはピーター・バーグ監督のアクション大作のほか、幅広いジャンルを手掛けて活躍しているドイツ出身のトビアス・シュリッスラー。プロデューサーには『ぼくが天使になった日』のジュリア・パラウとかなりのスタッフが揃っています。

 出演は『インデペンデンス・デイ』の大統領ことビル・プルマンが、所謂"女性の敵"となってしまう嫌らしい弁護士さん。若手秘書には『バラ色の選択』のガブリエル・アンウォー。そして『ファイナル・デスティネーション』のデヴォン・サワ。この3人が主役になって、不穏で罪深いサスペンスを盛り上げていきます。ビル・プルマンはニューヨーク、ガブリエル・アンウォーはイギリス、デヴォン・サワはカナダ出身なんですね。そういうエキゾチックな共演も面白い。

 これはひとの弱さというか、一時の過ちから人生が崩落していく様子を描いたヒューマンサスペンス。これから連邦判事として公正を保っていくはずの弁護士さんが、女性を犯す。解雇する。死なそうとする。実に嫌らしいね。この弁護士と秘書、加害者と被害者の関係に、デヴォン・サワ演じる若者が関わってくると、なかなか意外な展開を見せていきます。この不穏な気配のなか、3人はそれぞれどうなっていくか。どんなラストに向かっていくか。そのあたりはさすがに控えておきますが、これは脅迫をテーマにしたサスペンス映画でもかなり面白い、じわじわ怖いものがある作品です。男の弱さというものが、罪深くて悲しいくらい出てきました。
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