せいか

籠の中の乙女のせいかのネタバレレビュー・内容・結末

籠の中の乙女(2009年製作の映画)
1.0

このレビューはネタバレを含みます

自分用メモ

9.4視聴。レンタルDVD。
きっかけ:前に『アルプス』が「JAIHO」で配信されるようになるとかいうニュースを見て、日本で観られるランティモス映画をひとしきり観ようと思ったため。これ以前には『女王陛下のお気に入り』を観た程度。取り敢えず発表の古い順から観ていくことにする。

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とにかく最初から最後までキモい映画だったの一言に尽きる。いろいろ女王陛下とも通じるものを感じはしたが、こちらのほうが直裁的。タイトルの印象から、まあ何かおかしいところはあっても無垢で白い感じの閉鎖的な作品なのかなと思っていたし、ある意味そうではあったのだが、想像してたのより清さがないというかなんというか。私の語彙力のなさが悔やまれる。
そもそも原題はそのまま訳せば「犬歯」で、こちらのほうがいうまでもなく作品に沿っている。

父親が車に乗って家の外に出る以外、母、娘二人、息子一人(子供たちほ名前も与えられておらず、父母も呼ばれることはない)はずっと広大な庭を持つ家で過ごす。敷地は高い木製の塀で覆われており、立地も多分めちゃくちゃ郊外にあるため、ぽつんと一軒家状態なのかなと思われる。子供三人はすでに10代後半、へたすれば20代くらいといったところだが、ずっと家の中が世界の全てといったところだったようで、およそ歳にそぐわない性格と服装をしている(服装に関しては日本の私の目から見て、であるが)。物は質素ながらもある程度いろいろあるが、外部のもの芸術も娯楽も何もかもおよそ触れさせられないようで、そこにヒューマニズム的な文化はない。教育もちぐはぐな国語教育をしていたりして(テープに両親が吹き込んだもので、本来の言葉の意味をすげ替えていたりする)、万が一家の外に出ることになってもどうしようもないものである。
作中で飼い犬についての描写があるけれど、この作品の両親(特に父親)は、子供を社会の一員として育てるというものではなくて、パートナー的なものではなくて自分に都合がいいものとしての飼い犬のように子供たちを育てるというものなのだろう(母親もこうした犬の側面がある)。犬の真似をさせたり、言うことに従えさせたり、叱り方もまるで犬猫を頭ごなしに叱るような感じで、とにかく本当に観てて嫌悪感がすごい。

年頃の息子には自分の仕事場で警備員として働く女性を家に招いて相手をさせたりもするが、この女性も子供たちで自分の性処理をしようとしたりしていてなかなかどうしようもない。ク●ニが好きなようでそこにこだわっているのだが、このへんも、人間ではなく「犬」というものを意識したチョイスなのだろう。これに関しては女王陛下でも観られた表現である。というか、セックスをきもちわるーく表現するのがやたらうまい。
ともかく、セックスを知った子供たちが無知故に勝手に自分たちで近親相姦を始めるのかと思えばそんなこともなく、その垣根を越えさせるのが両親だったのがまたウヒョーって感じである。父親は娘にいらんちょっかいをかけていた(ついでに快楽の代わりに外の世界に関するものに触れさせてしまった)警備員女性の自宅まで押しかけて彼女をビデオデッキで殴りつけて呪いの言葉を吐いたり、いわゆる倫理観なり道徳観念がぶっ飛びにぶっ飛んでいるのでこわい。自分のしていることを告発された場合のことだとかは歯牙にもかけない行動をするのだよな。

子供たちが親たちがどれだけ世界から絶とうとも何か新しい言葉を知ったりする(そしてまた歪んで覚えさせられる)描写の繰り返しだとかがとにかく虚しく続く。とってつけたようなファンタジー(空を飛ぶ飛行機は落下すると庭でおもちゃの飛行機として転がる、ある日、プールになぜか魚が現れて、その時は父親の男らしさの見せ所になる等)の空疎さも子供たちはでかい図体でとことん無邪気に受け止めていて、しかもその無邪気さは絶対に美しくは描かれずにどこか獣じみた汚さがあって、なんだこれはである。
親は、子供たちが世界と断ち切られて歪んでいるのも構わず、人間として見ていないのがやるせない。子作りに関しては積極的だったり、なんというか、閉鎖的なカルト教団を一つの家に収めた感じの作品ではあるのだけれど、単純に、親というものの異常さ、親(特に父親)というものが持つ理想の家庭を極端に特出させたのだろうなあと思いながら観ていた。なんかシュールなフィクションだとかではなくて、これはある種、かなり身近に迫ったものなのではないだろうか。

ラスト、長女は、犬歯が抜ければ一人前になったとして外に出られるという作り話を信じて、自らダンベルで歯を折り、血塗れになってこっそり夜のうちに車のトランクに身を潜める。夜のうちに失踪に気がついた家族は探しはするも朝には諦め、父親は犬を連れて帰ってくる話さえする。長女がいなくなったら社会的に困ることが起きる心配などもしていないし、外に出た長女によって家が社会にどう見られることになるかなども特に話はしない。そしてそのままいつも通りに出社して、カメラは微動だにしないトランクを外側から映して終わる。シュレディンガーの箱状態である。大量出血のうえに一晩まるまる閉じたトランクにいた長女は、常識的に考えて、それこそ「籠の中の乙女」のまま死に絶えているのだろうが、そのへんは視聴者の自由に受け取ってもいいのだろう。

とにかく、きーーーーもちわるい作品でした!!! 女王陛下もキモかったですが、こっちのほうがより純粋にキモい!!! ひえっ!!!

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メモ
・外部に委託している犬の躾描写があったが、五段階のしつけを経てから家に招くみたいなことを言っていて、父親が二段階目時点で生き急いで引き取ろうとしたり、犬の名前(はある)を呼んでもまったく反応されなかったり、長女失踪後に犬を連れて帰ると言っていたときに、もう五段階目も終わるころだろうと言ってたり、そのへんの経過も本作の理解の助けになるものかと思う。

・父親がどんだけ子供たちに獣じみた躾をしてても、子供たちはそれぞれ(特に姉妹)、暴力性を剥き出しにしてお互いに傷つけ合ったりしていて、なんというかザマアという気もする。

・子供たちはそれぞれに犬っぽいふるまいをしていたのも目立つ。長男は両親が眠るベッドに入って身を寄せたり、長女は黙々とダンスをしたり(このダンスシーンがまたキモいしこわい。変態村のやつを観たときみたいに意味もなくにやつくしかない)、次女はペロペロと父親を舐めたり。

・ラスト、姉がいなくなった中で、ベッドで身を寄せる息子と妹が暗にそのままセックスおっぱじめてそうな感じがしたのも、もう収集つきませんわ感がひしひしとした。
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