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籠の中の乙女のKYのレビュー・感想・評価

籠の中の乙女(2009年製作の映画)
4.2
ヨルゴス・ランティモス監督作。
ギリシャ映画。

裕福な両親が外の世界の汚らわしい影響から守るため子どもたちをずっと家の中だけで育てる設定。そして外部者が持ってきた『あるもの』が子どもの価値観を揺さぶるという話。

設定上子どもたちの喜怒哀楽が全体的に弱く作られてるし、無菌な世界観を見せるために舞台が行き過ぎた簡素さ。破綻のない環境と上から外に逃げられない事を表すかのようにカメラを固定し横長な構図で撮られている。つまりはかなり億劫な空気ではあるけど、自分は飽きずに見れた。こういう設定の話が大好きというのもあるかもしれないが。

露骨に設定を見せず徐々に徹底した世界観を明らかにしていく作りはミステリー的な面白さがあるし、説明台詞よりも世界観に説得力を与えられていた。行き過ぎた過保護をコントのネタ的に笑わせる要素が所々あったのも良かった。裏を返せばこういう徐々に世界観見せる作りが苦手な人にはひたすら冗長な作品に感じるかもしれないが。設定を理解する気がないと意味わからんと投げ出しかねないし、それを見せるだけで1時間はかかってるだけに。

世界観のぶち壊し方もモチーフが面白い。現実においても映画とかドラマとか漫画などのエンターテイメントは『学べないものを学べる』もので、例えば小中学時代にそれらを見て恋愛したいと思ったり夢を持ったりと子どもたちは目覚めていくものだ。

ただ、結局のところこの作品はこの世界観における起承転結があるとすれば、その起承で終わってしまっているのが残念。後半30分少女は価値観を揺さぶられたが、その先を描いて欲しかった。その後本当の苦しみを知ってしまう事になるはずなので、そこも描いて欲しかったのはある。少なくとも隔離された家でずっと暮らせば恋に傷つく事も自分の無能さに絶望する事もない。小学生レベルの悩みだけで済んだはずなのだ。
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