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籠の中の乙女のmidoredのレビュー・感想・評価

籠の中の乙女(2009年製作の映画)
3.0
家の周りに壁を作り、子供たちに家から出たら死ぬぞと脅して中年にした夫婦の楽園とその顛末。

正直、いい歳こいた男女が小学生みたいな遊びをし続けるシュールなシーンばかりで地味に苦痛でした。はじめは何が何だか事情がさっぱり分からないまま進むのでより一層苦痛でした。分かってからも、いくら幼い頃からずっと閉じこめられたといっても、さすがにこうはならんやろと鼻で笑う一方で、やっぱりこうなってしまうのだろうかと薄っすら不安になる、そんな思考を行ったり来たりして、最初から最後までモヤモヤさせられます。

人を犬のように管理するグロテスクさは妙なリアリティを持って迫ってきて、気持ち悪いと同時に虚構世界を作り上げる創作の妙みたいな物も感じさせて中々見事です。単に大人が子供ぶってる茶番劇には見えません。奇妙な短編小説をそっくりそのまま映像にしたようなお話です。

長女が『ロッキー』を見て自分にブルースと名付けて、妹が疾走しながらブルースを連呼しているシーンが好きですし、物語のポイントだなと思いました。他人の虚構にはめこまれた人間が別の虚構を自ら選択することでその支配から逃れようとするという根源的な事が描れています。

例えば、カルトや新宗教にはまる人たちなどは教義という一種のフィクションを受け入れることで「現実」から逃れようとします。逃れた後は虚構こそがその人の現実ですから、家族が説得してカルトから連れ戻すのは大変難しい。とするといったい現実とは何なのか。事は宗教だけではありません。親子、夫婦、国家に政治。人と人との争いとは、結局は虚構と虚構の対決なのかもしないなと思うなどしました。

ちなみに猫が無惨に成敗されるシーンがあるので苦手な方はご注意下さい。
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