ジュリアン

籠の中の乙女のジュリアンのレビュー・感想・評価

籠の中の乙女(2009年製作の映画)
5.0
子供たちは社会から隔絶した生活を送るように強いられていたが、息子の筆下ろし目的で招かれた外部の存在によって親が作り上げた箱庭に変化が訪れて...というもの。

突然の不条理や箱庭でのナンセンスな遊び、知識を制限されてるが故のスリラーな出来事、クンニなど止め処なく彼女らの日常が続いていく。この家族の断ち切れるコミュニケーションや根底にある現実の歪さ、死に対する薄情さはどことなくチェーホフに似ている。

最後、シュールな艶笑喜劇で終わると思って見ていたら、それ以上に血縁共同体への嫌気さが上回るスリラーが待っているので驚いた。テルマとルイーズは自由になったが、彼女はトランクから出てはいけないという嘘を教えられているのであのまま死ぬしかない。

親は時にして子供に過保護になったり、健やかによく生きてもらう方便で嘘を言うが、こうも悪意あるカリカチュアの材料として使えることに感心した。社会による不条理はダメだが、父親の不条理は家族の愛なのでokという図式はまだ誰でもできそうだが、ポピュラーな要素を更に踏み込んでやってることに凄さを感じる。

ところで、ヨルゴス・ランティモス好きは浅野にいおが好きで、ナンセンスや性について過剰なまでにパセティックなお気持ちを表明したがり、特異なファンダムを形成しているとした偏見がある。全くもって事実ではないし、好ましくないが、上述した偏見が理由で彼の作品を見てこなかった。ところが『哀れなるものたち』が破茶滅茶に面白かったことが考えを改めさせ、今月は他の監督作を立て続けに見ていっている最中。今のところ全部面白い。