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籠の中の乙女のmasayaanのレビュー・感想・評価

籠の中の乙女(2009年製作の映画)
3.5
不思議な映画だ。人の顔がカメラと正対して写されることがほとんどなく、被写体との距離も曖昧なミドルレンジがほとんどで、画面の上辺で頭部が切れる構図が多用されている。また、カメラが本来捉えるべき空間の重心や、人の行動の軸が、画面の左端や右端の向こう側に置かれることが多く(性行為の場合は下辺側)、構図としてのピントがズラされ、「何かが絶えず隠されている」ような感覚をまずは植え付けられる。

それが、父親から何らかの事情で洗脳教育を施される兄弟姉妹(邦題は軽いウソをついており、子どもたちは男1・女2の編成である)の狭窄された視野のイメージだとすれば話は簡単なのだが、だとすればその効果はじわじわと見る者をも惑わし、ふと顔が正対して写されたり、全身が収まる距離で女たちが踊っていたりすると逆に落ち着かない。

「幸せな家族はどれもみな同じようにみえるが、不幸な家族にはそれぞれの不幸の形がある」というトルストイの名高い一節が以下のレビューに引用されているけれども、恐ろしいのはここに描かれている家族が必ずしも不幸には見えないことで、自らの境遇をめそめそと恨んだりする人間がいないことの方かも知れない。映画批評メディア『ディゾルヴ』が選ぶ「2010年代のベスト50」、第25位の作品。

https://thedissolve.com/features/the-dissolve-canon/909-the-50-best-films-of-the-decade-so-far-part-2/
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