半兵衛

第三の影武者の半兵衛のレビュー・感想・評価

第三の影武者(1963年製作の映画)
4.3
戦国時代影武者として選ばれた男の数奇な変転のドラマが南條範夫らしい残酷風味と大映流のアダルトで端正な語り口によって緊張感のある極上のドラマに。影武者が本物やお家のためにひたすら苦痛を強いられるさまが執拗に描かれるので見てるこちらが堪えられなくなる、特に中盤本物の武将が片目になったときほかの影武者も片目にされる場面の怖さ、主人公が目を切られる場面は直接は映されないがメスを持つ医者と目越しのカメラによって『アンダルシアの犬』を思い出して気分が悪くなった。こうした場面や戦国の世をしたたかに生き延びる怪物たちに翻弄される市川雷蔵の姿は彼の持ち味である悲劇性が際立つ、そしてこの映画の雷蔵は凡人なので彼らに反撃してもさらにやり返されるのが切なさを倍増させる。

老獪な金子信雄をやり込めたら真の悪党が出現するという流れも見事で、その役割を担う天知茂が持ち前の冷血さと胡散臭さを十二分に発揮して後半の悲惨なドラマをさらに盛り上げる。彼らと対照的に武将の愛人で雷蔵を偽物と気付きつつもその優しさに惹かれて恋仲になる万里昌代とのドラマパートに気分が和らぐが、その彼女ですら主人公を地獄に叩き落とす道具として使う作り手たちの非情な姿勢に唖然。ていうかこの映画での万里昌代はあまりにも美人過ぎて世の男の大半は「彼女のためなら出世なんかどうでもいいや」となるはずなのに、中途半端に彼女と出世両方手にしようとする雷蔵の結末はある意味報いを受けたとしかいいようがないかも。

大映スタッフによるきめ細かい美術やスタイリッシュな白黒の映像が作品に風格をもたらす、あと人間ドラマがメインなのに戦闘シーンの迫力が結構凄く邦画黄金時代の底力の凄さを思い知らされる。あとこの映画で特筆すべきは影の使い方、主人公が影武者の屋敷に入るとき昼間とは思えない暗さに包まれることで今後の非情な運命を示唆し、後半では本物に成り変わった主人公の心のひだとなって襲い、ラストでは転落した主人公の精神状態をあらわす道具として使用されるという細かい仕事ぶりはもはや神レベル。

主人公とセットを一切動かさず、陰影や道具、声で時の流れと精神を蝕まれる雷蔵の心情を表現する終盤の演出に息を呑む。芥川隆行による名口調で締め括られる非情なラストも最高。
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