チッコーネ

お国と五平のチッコーネのレビュー・感想・評価

お国と五平(1952年製作の映画)
4.0
時代劇だが、欺瞞に切り込む新しさと鋭さあり、さすが文豪作品の映画化。
「武家の寡婦が仇討道中に出る」という設定には意表を突かれた、実際にこのようなことはあったのだろうか?

ホトトギスの春、盆踊りの夏、そしてススキの秋と風情を感じさせる背景は清々しいものの、クライマックスまで重く停滞し、代わり映えのない堂々巡り。
本筋の息抜きとして江戸の世の風俗や演芸が多く盛り込まれるほか、ヒロインが御髪を整える宿屋の鏡など、アンティークな小道具も目に楽しい…、「島田の鬢は、寝る時こうほどかれるのか」と気付く場面もあった。

邦画黄金時代を代表する監督としては黒澤、小津、溝口、そして本作の成瀬の名が挙がる、そこに木下惠介を加えたいという向きも在るだろう。
大女優と呼ばれても、5巨匠の作品すべてに出演した者は少ない。
絹代に五十鈴、久我美子、そして本作主演の木暮実千代ぐらいだ(助演だと杉村、東山、そして本作に顔を出す三好栄子も達成)。
木暮×成瀬は本作のみでいつかは観たい作品のひとつだった(五社協定の時代、当時の木暮は松竹所属)。
期待に違わぬ妖艶な佇まいで、『雪夫人絵図』での彼女を想起させるタイプロール。
また女の弱味を握る落ちぶれ侍(山村總)は、劇中で「唾棄すべき存在」として描かれているものの、武士道さらには後世の帝国主義が孕む不条理を看破する、アンチヒーローとしての側面も備えている。