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ザ・ムーンのTSのレビュー・感想・評価

ザ・ムーン(2007年製作の映画)
3.6
【私の残した足跡は誰にも消せない】
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監督:デヴィット・シントン
製作国:イギリス
ジャンル:ドキュメンタリー
収録時間:100分
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リード文は、今作の最後に言われる言葉にして僕が今作において最も感銘を受けた言葉です。今作は、アポロ計画のドキュメンタリー映画です。従って、貴重ですが古い映像が使用されるので、パッケージのような宇宙美を楽しむ映画ではないということは先に申し上げておきます。

1960年代のアメリカ。冷戦状態であったアメリカとソ連はこぞって宇宙開発競争を行います。初の宇宙の有人飛行をしたのはソ連のガガーリン。これが相当悔しかったのか、アメリカは総力をあげて人類を月面に送りこもうとします。ケネディ大統領の声明映像も引用されているので、興味深いです。

アポロ計画陰謀論も囁かれていますが、それも根拠に乏しい話。「歴史的な出来事に関してはいつだって陰謀論がある」というのは的を得ている話でして、これに関しては常に懐疑的になれという人間の性をも表してるものかと感じられます。何故に、素直にそれを受け止めて感動出来ないのか。人間という生き物は難しいものです。

真意はさておき、アポロ11号の船長ニール・アームストロングが月面の第一歩を踏んだのはあまりにも有名です。今までの人類の歴史を鑑みても、月面に足を踏み入れたのは彼が最初。どういう気持ちになるのでしょうか。感動は計り知れないでしょう。ただ、これは他人事の意見であって、当の本人なら素直に感動だけなんてしてられないでしょう。地球に帰れるのかさえ全く保証されていないこの状況。恐らく乗組員は全員、常に最悪の事態を想定して旅を続けていたのでしょう。それくらいの覚悟がなければ行けないからです。

ただ、全てを成し遂げて地球に帰還した人間というのはやはり以前と比べて何かが変容しているようです。ある乗組員はこんなことを劇中で言ってました。

地球はエデンの園である。
何も不満になることはないじゃないかと。

生きるか死ぬかということに常に隣り合わせであった彼らからすると、地球にいるというだけでこの上ない幸福であるのだということです。彼らからすると、宇宙は手に届かない神の領域でしょうが、それ故に常に安堵することが出来ない領域だったのでしょう。まあこの気持ちはわかります。海外旅行は楽しいものですが、やはりいつ不祥事が起こってもおかしくない。自分の家に帰った時にほっとして、我が家がやはり一番安心する。と思う気持ちはかなり共感出来ます。規模はまるで違いますが、的を得ているでしょう。

このようなドキュメンタリーを作成してしまうのもまた面白いところ。陰謀論だの、月面着陸を信じない人たちへの当てつけのような気もしました。ここまで潔くインタビューをしていたら、疑うことなんてしないでしょう。と。話だけを聞けば確かに説得力のある映画でしたが、これがイギリスの製作というのが問題です。アメリカではなくイギリスが製作してるのならば、やはり説得力に欠けてしまいます。これではやはり真意はわかりません。ただ、もし本当ならば、リード文に書いたこの言葉は納得せざるを得ないです。月面着陸をした人類は、実は彼ら以外未だにいないのですから。

それにしても、月面着陸という真の目的は何だったのか?新たな資源の確保となると、月にはそういうものはないと思われるので考えにくい。するとやはり、月面着陸というのは米ソの冷戦という社会状況が生み出した、一種のゲームだったのかもしれません。一番目と二番目では全く価値が違う。アメリカが月面着陸を初めて成功させたのならば、これはもう揺るがない事実と化します。アメリカはさぞ、ソ連に対して優越感に浸っていたでしょう。と、やはりアメリカとソ連の一種のゲームに過ぎず、月そのものへ行った目的はやはり不鮮明です。つまるところ、月面着陸というのは偉大なことでしょうが、ただの人類の自己満に他ならないということでしょうね。

ということで、宇宙が好きな方、アポロ計画に興味がある方からすると興味深い一品であると思われます。
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