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ザ・ムーンのQTakaのレビュー・感想・評価

ザ・ムーン(2007年製作の映画)
3.8
実際の映像と宇宙飛行士たちの証言によるドキュメンタリー映画です。
最高のキャストと至上の映像による月旅行物語。
月へ行った、その一人一人が、その思いを、体験を語っている。
月から何を見て、何を思ったのか。
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彼らの姿は、既に老人の域に達しているかもしれないが、彼らは、若くしてそれらの貴重な経験をしてきた。
その1960年代を中心とした時代を含めて語られている。
もちろん、その中には、米ソ冷戦、宇宙開発競争、そして、あのJFKの有名な演説もある。
そういう時代を彼らの姿、彼らの言葉を通して表現されている。
これ以上の演出があるだろうか。
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宇宙飛行士は、まず第一に宇宙飛行士であって、その姿は、宇宙飛行士として描かれなければならないと思う。
そして、その姿を最も雄弁に説得力を持って語ることが出来るのは、宇宙飛行士だということだろう。
しかも、この映画でわかるのは、彼らが実に雄弁であるということだ。
どんな脚本家よりも。
事実は、小説よりも複雑で、魅力に満ちている。
Apollo8号が、はじめて月を周回して帰ってくるミッションに飛んだ時、月から地球を撮影した。
その時、聖書の一節を地球へ向けたメッセージとした。それを、こう語っている。
「我々人間が科学のために月へ来たのではなく、もっと根源的なものを語っていた。」
何かをするために月へ行ったのではなく、そこから地球を眺め、確かめることが重要だったということか。
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映画の中で、飛行士たちは互いについて表している。
ニール・アームストロングについて、「ミスター・クール」と呼び、訓練中の事故などについて語っている。
記者会見での彼の姿も、その慎重な語り口とともに登場する。(この映画には、ニール・アームストロングのインタビューは無い。)
自らを語り、互いを表する。
そうして現れてくる宇宙飛行士の姿は、真に迫るものがある。
それこそが、私たちが見たい姿だと思う。
そして、彼らが伝えたい姿がそこにある。
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Apollo11のパイロット、マイケル・コリンズとバズ・オルドリンが、発射当日の事を思い起こしながら語っている。
管制室とのやりとりが当時の生の声のまま映像に重ねられる。これが最高だ。
発射時の様子を表現する二人の宇宙飛行士の言葉が面白すぎる。
こうして生の声を聞くと、この宇宙計画の持っていた熱量を感じる。
頭で考えて進めた計画ではなく、むしろやる気と根気と勢いでやっちまったようにすら思えてくる。
そして、なによりも、Apollo計画の記録映像は美しい。
ロケットの炎も、その向こうに広がる青空も、そして、眼下に広がる青い地球も。
宇宙空間で、切り離される指令船、ドッキングする月着陸船、そして月面。
その向こうから昇る青い地球。
それらをApolloの宇宙飛行士たちは見てきた。
「地平線は緩やかな弧を描いている。地球周回軌道から月へ向かう時、地球を振り返ると、地平線がだんだん丸くなり、突然、地球が姿を現わす。不思議な気分だったよ。まるで、地球の進化を見ているようだった。」
その星の姿を「宝石のような地球」と呼んでいる。
「その姿はとても力強い。こんなに小さいけど」
「とても安らかで静かで穏やかだが、とてももろく見えた。」
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ハイライトは、Apollo11の月面着陸。
燃料ギリギリで無事着陸成功。
その一部始終を実際の映像、イーグル(月着陸船)、管制室、宇宙飛行士の証言と、全世界へ中継されていた映像とともに表されている。
そして月への第一歩は、ニール・アームストロング船長。
〝That's one small step for a man, one giant leap for mankind〟
このアームストロングの世界へ向けたメッセージについて、他の宇宙飛行士は、
「彼は、自制心を失わずにあの言葉を口にした。とても素晴らしかった。」
と語っている。
月面への人類最初の一歩をこうして冷静に言葉に変えたニール・アームストロングの人柄が浮かび上がってくる。
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伝記映画や史実に基づいたストーリーの映画化は簡単では無いのだと思う。
事実を並べても、その時の興奮やあらゆる感情はそこに浮かんでこないかもしれない。
実際にそこに居て、その時間を支えていた人々を慎重に、丁寧に表現することで初めてその場に有った空間がよみがえってくる。
丁寧さと慎重さ。
感動するのでは無く、その姿に惚れるくらいの表現が求められる。
この映画はドキュメンタリーで有りながら、現場を支え合った人々の証言が、その記録映像と共に映画の観客に訴えかける。
「この物語は、とびきりスリリングで、驚きに満ちていて、興奮するぞ」
「俺たちは、その主人公だ」
ってね。
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