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ミッドナイト・イン・パリのEikeのレビュー・感想・評価

ミッドナイト・イン・パリ(2011年製作の映画)
3.5
ウディ・アレン。
最近の若い映画ファンの皆様は彼の作品をどういう風にご覧になられるんでしょうか?
米国映画の大型化・商業エンタティメント化の中にあってアレン氏の作品群はかなり異色な存在ではあります。
有無を言わせぬ「知的」で「センス」に裏打ちされた作風は熱烈な支持を集めると同時にともすればスノッブの象徴として揶揄されることも多い。

彼も1935年生まれですからもう米寿をお迎えになられるわけです。
しかしフィルモグラフィーを見て驚かされるのは1977に「アニー・ホール」でオスカーを獲得以来、本作が公開された2011年ころまでほぼ毎年新作を送り届けていたこと。
生き馬の目を抜く苛烈なアメリカ映画界では異色中の異色の存在とも言えるかもしれません。
流石に全てをリアルタイムで見て来た訳ではありませんが80年代辺りの諸作のクオリティの高さには素直に敬服せざるを得ないのではないでしょうか。
同時代の映画人としては正にワン・アンド・オンリーの存在であることは確かでしょうが正統な評価は彼が鬼籍に入るまで待たねばならないでしょうね。

しかし、ここがウッディ・アレン足るところなのだが本作を含めて決して「大御所」あるいは「巨匠」といったレッテルに甘んじるような作品など一本たりとも送り出していない点。
本作も時代に迎合するような作品ではありませんが、かと言ってベテランによる安定感(あるいは我儘)を前面に打ち出すような作品にはなっておりません。

アレン氏の近作らしく本作も舞台はアメリカではありません(この辺りにも主張が感じられます)。
パリを婚約者と旅行中の売れっ子シナリオライター、ギル(O・ウィルソン)が彷徨い込んだ真夜中にだけ開く「もう一つの花の都」へのドア。
憧れの時代、憧れのクリエイターたちと夢のようなひと時を過ごす彼の人生への迷いがコミカルにそしてペダンチックに描かれて行きます。

如何にもアレン氏らしいインテリジェンスに満ちた「寓話」。
しかしさすがに若い頃の作品群の様なスノッブ臭は薄れており良い意味で「万人向け」な作品と言えそうです。
時間旅行ジャンルの一本としても楽しめますが同時にアーティスト達が抱える万国共通の「嘆き節」が物語の底辺に流れていて中々に含蓄があります。
何時の時代にあってもクリエイター達はある種、時代に馴染めない「怒れる若者たち」であり、その不満やストレスこそが創造の原動力となっているのだ。
1920年代のパリにタイムスリップしたギルがそこで出会った憧れの芸術家たちにとってはちっとも当時が「黄金時代」であるとは認識されていないことの皮肉。
その事実を目の当たりにしてギルの選んだ道とは?

主演のオーウェン・ウイルソンがアレン氏のペルソナとして意外にフィットしていることが成功の要因ですかね。
相当に豪華な面子を揃えた配役も大きな見どころです。
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