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ミッドナイト・イン・パリのEyesworthのレビュー・感想・評価

ミッドナイト・イン・パリ(2011年製作の映画)
5.0
【夢と芸術が眠る街、銀河に灯るパリ】

ウディ・アレン監督、オーウェン・ウィルソン主演の2011年のファンタジーコメディー

〈あらすじ〉
ハリウッドで成功した若き脚本家のギル(オーウェン・ウィルソン)は、婚約者イネス(レイチェル・マクアダムス)と憧れのパリを旅行する。しかし、イネスとの関係や初めて書く小説に不安を抱き、気持ちが晴れない。そして、深夜0時。街で佇む彼を、鐘の音と共に現れたクラシックカーがパーティーへ誘う。そこには、なんと1920年代の芸術家の姿が…

〈所感〉
この作品は私にとって映画にハマるきっかけをくれた原点の一作であり、思い出補正もあるが、これまでもこれからも一番大切で大好きな映画。この映画を見なかったら今の映画漬け生活はなかったと思う。中学生の頃にWOWOWでたまたま見たのが最初で、その時が初めての洋画鑑賞だったのを覚えている。そのため非常に新鮮で、外国の景色ってこんな綺麗なんだ!外国の映画ってこんな凄いんだ!と広い世界を知らない厨二病の私はド肝を抜かれたのを昨日のように覚えている。漠然と外国(=パリ)って美しいんだなと誰もが通る異国への憧れを持ったのもその頃だ。
そして、再び昨日WOWOWで放送されているのを見ることができた。ウディ・アレン監督の映画はロマンスとコメディーの絶妙なハーモニーで心が嫌でも騒がしくなる。
大人になってから見ても、あの夢のような美しい映像は健在で安心した。少なくともあの映画に心を奪われた体験は夢じゃなかったことがわかったからだ。冒頭4分弱のあらゆるパリの景色と長閑な音楽が流れるだけの映像で鑑賞者の目を奪い、深夜0時の鐘が鳴ると、過去のパリへとタイムスリップして過去の偉大な芸術家達に会えるという秀逸な脚本に心を奪われた。そういえば昔はこの作品に登場するフィッツジェラルドもヘミングウェイもエリオットもダリもスタインもマン・レイも誰の名も一切知らなかったのによく楽しめたと思う。それなりに彼らを知った今の状態で見返すと、登場するビッグネームの数々に驚きを隠せない。彼らは夢の案内人として現代の芸術に悩むギルの手助けをし、輝かしい未来へと導いてくれる存在だった。ギルもそうだったが、誰しも過去は偉大で輝かしく見えるという黄金時代思考を持っているが、現実に帰ることでやっぱり今が一番良いと再確認できる。その時代にはその時代のその人なりの輝き方があるのだから。彼はそれを身をもって知った。1920年代に住むパリジェンヌはベル・エポックに憧憬を持っていた。我々はいつもないものねだりなのだ。現在へと戻るギルと過去のベル・エポックの時代に留まることにしたアリアドネの選択の差異は、さながら『バック・トゥ・ザ・フューチャーIII』のマーティーとドクのようだった。そして、彼ら先人達がそうだったようにギルも現在のパリに恋をし、パリに骨を埋める芸術家となっていくのだろう。アメリカと恋人から去り、ロマンチックな思考や言葉が唯一許される街で、隣には雨に濡れても構わない運命の恋人がいて、たとえ成功せずとも、幸せな芸術人生を送っていくのだろう。
ラストのレア・セドゥ演じるガブリエルの雨に濡れながらの100万ドルの笑顔を見て思い出した。そうだ、私の初恋はレア・セドゥだったのだ。長らく忘れていた。一度見たはずの台詞とシーンなのにエモすぎて涙が止まらなくなった。頭は置き去りに感情だけがあの頃にタイムリープして、過去の雨が現在の土と融和していく。

「パリは雨が一番ステキなの」
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