てっぺい

ミッドナイト・イン・パリのてっぺいのレビュー・感想・評価

ミッドナイト・イン・パリ(2011年製作の映画)
3.5
【CGを使わないCG映画】
ラブロマンスをベースに、憧れの時代への時間交錯や、その偉人達と出会う夢見心地な感覚が一切CGを使わずに描かれる不思議な錯覚映画。観光協会製作並みのパリの魅力てんこ盛りで旅行欲もド刺激!
◆概要
監督・脚本は「アニー・ホール」のウッディ・アレン。出演は「アルマゲドン」のオーウェン・ウィルソン、「アバウトタイム~愛おしい時間について~」のレイチェル・マクアダムス、「マリアンヌ」のマリオン・コティヤール、仏大統領夫人で歌手のカーラ・ブルーニら。第84回アカデミー賞脚本賞受賞作品。
◆ストーリー
ハリウッドで売れっ子の脚本家ギルは、婚約者イネズとパリへ旅行に。パリの魔力に魅了され、パリへの引越しを決意するギルだったが、イネズは無関心。2人の心は離ればなれになり……。
◆感想
パリの魅力満載。行ったことがあってもなくても、行きたくなること間違いなし。街全体がすでにアートなその風景、雨のよく合うその情景、さらに過去の偉人達が時代を錯綜しながら登場する、もはやパリのPV映画だと言っても過言ではない。
なんだか自然と、アートの世界のような夢の中のような、不思議な世界に吸い込まれて行く映画だった。実写とCGで構成する現代の錯覚映画はいまやいくらでもあるけど、CGが現実と非現実の境を繋ぐものだとするならば、この映画はまるでCGを使わずに製作されたCG映画。映像と構成で見る側を心地よい錯覚に陥れる、これぞ映画の妙だと思う。アカデミー賞脚本賞を獲ったのもこの点が大きかったと推測する。
◆以下ネタバレ◆
夢の中に会いたかった人が出てきて、とても幸せな気分を夢が覚めてもなお味わう事って誰にでも経験があると思う。この映画はあの感覚を映像化して、終始夢見心地で幸せな空間に誘ってくれているような気がする。始めは酔いに乗じた記憶違いとも取れた感覚が、次第に現実化して、ギルがその世界にのめり込んでいく描写が至って自然。アドリアナの手記に自分の事が書かれているのを知ったギルのイカズチが落ちたような表情が印象的だった。ヘミングウェイに出会い、スタインを紹介され、自分の小説を読んでもらうなんて、凡人の自分でもワクワクする。ギルを追う探偵を最終的に失踪させる事で、全体のふわふわ感をを夢オチにさせない括り方もこだわりがあったと思う。
メッセージも明確。“ノスタルジーショップの男”を描く小説を書いていた“黄金時代思考”の、つまり過去に生きていたらもっと幸せだったと信じるギル。そしてその黄金時代に自分が迷い込んだ時、その時代に生きる他人もそれより過去の黄金時代に憧れている事に気づく。偉人達との出会いに歓喜するものの、その幻想の象徴であるアドリアナに別れを告げるギル。そして現代の女性と現代の雨降るパリへ消えていくギルは、真実にひとつ近づいたギルがたどり着く、この映画らしいラストだったと思う。
ひとつ残念なのは、自分が芸術や文学に疎く、この映画にバンバン登場してきた芸術家にさほど感動出来なかったこと。多分詳しい人だと自分より何十倍もこの映画の魅力が増すのでは。
いずれにしても、時代の交錯を実写のみで描く表現力の豊かさ、明確で揺るぎないメッセージ、そして何よりパリの魅力満載の、まさに夢見心地な映画でした。
てっぺい

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