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サブウェイ・パニックのbeachboss114のレビュー・感想・評価

サブウェイ・パニック(1974年製作の映画)
5.0
食指が動かない地味なオッサン俳優陣で贈る、見ておかないと損する味な映画。

地上と地下、北から南、南から北への導線の交差という、NYの街の特性を活かしきった構成。サスペンスとしての本筋の面白さや落語みたいに余韻のある絶妙なオチもさることながら、脇役ですらない端役のキャラや群衆の描写がこれほどまでに充実している映画はなかなかない。登場人物から背景に至るまで、とにかく画面の隅々までが「生きている」。

最後まで寝てたオバハン、最後まで風邪引いてた市長、最後まで風邪引いてた犯人、最後まで女性だと思われてたロン毛の刑事。普段は暇すぎる地下鉄公安局の本部、駅名を間違える訓練中の車掌、身代金を届ける途中で犯人と狙撃隊の間に挟まれる凸凹警官コンビ、実は英語が分かる日本人ビジネスマンご一行、負けてくれない高速料金所の係員、「動いた」「何が?」の応酬、などなど。

警視の車がさりげなく横転現場の横を通り過ぎたり、売名で現場視察に駆けつけた市長の姿を映像で見せることなく、野次馬のブーイングと警官の悪態だけで表現する、といった映画的なセンスも光る。

猛スピードで紙幣を数えて用意する銀行スタッフ、事件と並行して通常運行に努める地下鉄の管制室など、プロの仕事ぶりへの目配せも丁寧。

そして冬の映画にも関わらず、この暑さ、暑苦しさ。低周波でスローで力強い地に足ついた劇伴は、都会の地下を流れる市民の日常の不満や鬱屈の鼓動のようで、観る者の心拍数にシンクロする。

原題も秀逸。華やかさは微塵もないが、街や人が総動員で「静かに派手に鮮やかに」やらかしてくれる群像劇。リメイク版は無視していい。

【追記】
字幕版がオススメ。吹替版は声優や演技的には優れているが、台本がダメダメ。台詞の細部の遊びや面白さがことごとく台無しに。
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