Ricola

恋人のRicolaのレビュー・感想・評価

恋人(1951年製作の映画)
3.7
結婚前夜に幼なじみとデートをして、お互いに気持ちが通い合う…。
池部良演じる誠一と溌剌とした久慈あさみ演じる京子のデートがとっても楽しい。

「大人もたまには夢が見たいのね」
京子のこの台詞が、彼らの置かれた状況ではより切なく聞こえる。


ヴィヴィアン・リーの『哀愁』を結婚前日にデートで観に行くのも、かなり意図的に思える。
その映画のシーンがわりと長々と映し出されるのは、少々冗長に感じた。
しかしそのおかげで、『哀愁』を全編観たことがない人にとっても、『哀愁』でのカップルの行く末がこの作品のそれとリンクしているであろうことは想像できるだろう。

前を真っ直ぐ見据えて歩く京子に対してうつむきがちな誠一。
二人の明日からの未来に対する思いの違いがそこで表されている。
しかし、その後二人で前を向くシーンもある。
それは二人が手を取り合ってスケートで滑る様子を正面から映したシーン。
二人の多幸感に満ちた笑顔がキラキラとしていて青春を感じる。

誠一が喧嘩売ったタクシー運転手、偶然居合わせた誠一の会社の先輩、満員電車の隣のおじさん、居酒屋での隣のお客さんや駅員など、わりとちょい役の人たちがいい味を出しているのが面白い。
彼らのコミカルな役どころのおかげで、誠一と京子の「思い出」がより鮮明に記憶されるようである。

他にも、「池部良に似てるわね」
って、本人です!笑と、ツッコミを入れたくなるようなお茶目な台詞が微笑ましかった。

ダンスホールで踊って顔が近くなり、ドギマギする誠一がかわいい!
それに対してあまり動じない京子。
この二人が相性がいいことは明らかである。

そんなコミカルさと切なさのバランスが絶妙である。
例えば、電気が消える演出が切なさを生み出す。
カメラが横に平行に動いて、ライトが現れたと同時に明かりが消える。
ダンスホールでの机上のランプと、京子の実家での電気。
どちらも彼らを現実へと引き戻すようである。

説明的過ぎる夫婦の会話がちょっと蛇足なのが、余白がなくてストレート過ぎるのが個人的にはあまり好みではない。
しかし、前述した通りのラストの灯りの演出が素敵だったので、良い余韻を感じたまま幕が閉じた。
Ricola

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