とうじ

アデルの恋の物語のとうじのレビュー・感想・評価

アデルの恋の物語(1975年製作の映画)
3.5
「愛」の弱さに傷ついたり、苦しんだりする物語がたくさんあるが、じゃあもし愛がそんなに強いものなのであれば、それはそれで不気味で、怖くて、有害なものでしかないのではないか、というのがよくわかる本作。
主人公は、ある男の人に恋をしてから、彼に否定されても諦めずに、執拗に彼を追いかけ続ける。
その過程で拒絶され続け、ボロボロになっていく様は不気味でもあるが、それをトリュフォーの優しい目線で描くので、露悪的でジメジメとした感じはしない。
「野生児」でも感じたが、トリュフォーは映画監督としては異例なくらいの優しさと慎重さ、そして「それらをもってしても映画として成り立つに違いない」という媒体への信頼に溢れている人である。
それが実力と相まり、本作のような、悲観も楽観も押し付けることない、小粋な作品を作ることができている。
こんな気持ち悪いものは「愛」ではない、と言いたくなるが、愛は客観的観測が不可能なものなので、本人が愛だと思っているのなら愛なのである。
その主観性を、映画を通して観客と取り繕うのに、温和なトリュフォーは適任だったと言える。
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