小林

ブルーベルベットの小林のレビュー・感想・評価

ブルーベルベット(1986年製作の映画)
-
アメリカの好青年が怪事件に巻き込まれる話。
白い垣根と色とりどりの花々に、絵の具のように青い空、こちらに手を振る消防士と子供たちを先導する老婆の姿。アメリカの広告を思わせる映像が次々映し出される。今度は庭園にて水を撒く老翁だが、一転、ハチに首を刺され心臓発作を起こし、もんどりうって倒れてしまう。カメラが草をかき分けて入っていくと、生存競争を繰り広げる昆虫たちの姿があった…。一見美しく穏やかにみえる光景も、ガワをめくってしまえば、悪意に満ちている。雄弁に本作のテーマのひとつを語るオープニングが最高である。
物語の構造は『不思議の国のアリス』に近いと思う。ざっくりいってしまえば、アリスは穴に入って様々な奇妙な出来事や奇矯な人物に体験し出会いながらも、夢から覚めて現実に帰っていく。『ブルーベルベット』も、カメラが耳の穴から入って、主人公は悪魔の如き体験をするが、穴から出ていって現実に帰る。しかしここから先が重要だ。目覚めた主人公の眼に映るコマドリは、燦々と輝く明るい太陽に照らされているが、あからさまにつくりもののように見える。暗い世界を知ってしまった主人公は、はたして本当に現実へと帰ったのだろうか?
小林

小林