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ブルーベルベットのmidoredのレビュー・感想・評価

ブルーベルベット(1986年製作の映画)
4.5
父親の怪我をきっかけに生まれ故郷へ戻ってきた青年が思わぬ事件に巻き込まれる。

これはもう、カイル・マクラクランという触媒によって、魂が光と闇に触れる過程を擬似体験させてもらえる現代の宗教画ではないかと思われます。

地獄の象徴たる欲望と炎、天国からのコマドリの愛という宗教的なモチーフが繰り返し提示され、夢でも見てるような気分でジェフリー(K.マクラクラン)と共に慄いてました。ほぼ目と耳で摂取する幻覚剤です。ちなみに青は聖母マリアの色でもあります。

半分腐りかけたベンの耳👂🏼から始まる不穏な空気感が健全なジェフリーの耳で終わるという様式美。視覚や聴覚から始まったものがベルベットの悩ましい手触りという、より原始的な感覚であるところの触覚刺激によって闇に潜り、深く展開し、また視覚聴覚に戻ってくるなんぞまるでソナタのようです。ストーリーは恐ろしさと不穏さにに満ちていながらもシンプルで過不足のない美しい世界です。

もうすべてが好きなので、数えたらキリがないのですが、良い感じのダイナーとか、いちいち画面を横切る丸太棒つんだトラックとか、絶妙に煤けてる内臓色のドロシーの部屋とか、ちょい脳みそはみ出し気味の黄色スーツの男とか、何でこんなに面白かろうというくらい見ていて味があります。センスの塊だと思います。

無駄に吠える狂犬みたいなデニス・ホッパーも印象深い。そんなに体も大きくないし、手下も少ないし、筋力も弱そうなのに存在感がありました。ツインピークスにおいてのボブでしょうか。

F言葉連発しながらの奇怪なご乱行の数々は怖くておぞましいながら、単純な暴力ではなく、魂に対する暴力という感じで、サディズムの性愛の匂いで主人公を地獄に誘惑しているようでもありました。涙目のカイル・マクラクランにキスの雨を降らすシーンは他のラブシーンより濃厚なラブシーンに見えました。

それにしてもやっぱり黄色スーツのゴードンですよ。なんですかあれは。最後のアレが衝撃的で、出てる時間は5分もなかったのに忘れがたい。ツインピークスにもゴードンという名の男が出てきて、リンチ監督みずから演じていましたからお好きなんでしょうか。
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