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ブルーベルベットのtigerpantsのレビュー・感想・評価

ブルーベルベット(1986年製作の映画)
4.4
『イレイザーヘッド』や『エレファント・マン』でのカルト的評価が『デューン/砂の惑星』の大失敗でご破算になってしまったミッド80sのリンチが飛ばした、起死回生のスマッシュヒット! のはずが、約40年後の令和の世に定額配信で観られてしまい/さらには/評価もさほど高くない……なんでやねん?!

「50年代アメリカの栄光」(のどかな田舎町、オールディーズ音楽)に「80年代アメリカの病理」(窃視や暴力や性的虐待)を重ね合わせた構造は、たしかに公開当時のような批評性を今なお湛えているとは言い難いのかもしれない。

それでもなお、本作におけるキャスティングやサントラ音楽(アンジェロ・バダラメンティ)が、のちの『ツイン・ピークス』や『ワイルド・アット・ハート』に繋がってゆくことを思うと、メルクマール的な作品であることはたしか。

(ディーン・ストックウェル演じる)〝おかまのベン〟の歌唱シーンや、凶暴なサディストである(デニス・ホッパー演じる)フランクが演説かまして突然消滅するシーンなど(本筋からしたら、ノイズのような)意味不明なカットが、逆に印象に残る。下手したら、一生忘れられない……。

『デューン/砂の惑星』の失敗から「いくら予算を減らされても、ファイナル・カット権を死守した」リンチが「自分が撮りたかったこと」をとことん追求した成果であり、セックスや暴力に関する描写も「とことんやり込んでいる」けれど、そこまで扇情的でもない(ので、アートフィルム的にも評価される)。

それでも「観る者」を選ぶタイトルであることは間違いない。体当たり演技(死語!)のイザベラ・ロッセリーニの役どころは、いま撮影するとしたら、インティマシー・コーディネーターが必須だろう……
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