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ブルーベルベットのhasseのレビュー・感想・評価

ブルーベルベット(1986年製作の映画)
3.7
演出5
演技4
脚本3
撮影3
照明3
音楽4
インプレッション4
ドロシーのパーソナリティーの二面性。家族の安否を案ずる妻母としてのパーソナリティー。その一方、ジェフリーにマゾな性行為を求める女としてのパーソナリティー。不和な二つのパーソナリティーの共存ともとれる。一方、ジェフリーにぶってと要求することは、今の自分の闇を否定すること、闇から光に解放されようとすることでもある。

あたかも50年代ハリウッド映画を彷彿させる手触り。家並みや小道具、音楽、オープニングクレジット、俳優の言葉遣い(スラングなしの聞き取りやすい良識的な英語)。これは黄金期のハリウッド映画を、平和な日常、光の象徴に見立てている。
そこにじわじわと食い込む非日常、闇。冒頭の地面から蠢く虫が最たる例だ。

リンチ監督は初見で、奇才、ぶっ飛んだ映画のイメージが先行していたが、ブルーベルベットはやや違った。ストーリーや演出の基本ラインは極めてベタをやる。ラストシーンに至っては、光の象徴たるコマドリが、闇の象徴たる虫を咥えている様子をヒロインに目撃させるショットなんかを挿入する。
リンチ監督の持ち味は、そういったベタベースにいかに不和、不純物、違和を混ぜ込み共存させて見せてくるかというところだ。
最初のほうのシーン、いかにもクラシックな家の中でテレビ画面が一瞬写るが、画面には拳銃のクローズアップ。また少し先のシーンのテレビ画面には階段をゆっくりと昇る不気味な足のクローズアップ。このあとのストーリーの暗示とも取れるが違和感しかない。こういうテンプレ家のテレビにはテンプレ番組が流れていてしかるべきだ。また、家に老女が二人もいる。ジェフリーの叔母かなにからしいが、普通、一人配置すれば事足りるはずだ。二人がそれぞれの役割を持っているなら話は別だが、そうでもない。なのに、二人もいる。
物語としては闇から脱出し光へ(ベタ)なのだが、描写としては闇と光の混交なのだ。そのアンバランスさをバランスさせているあたりが非常に面白い。
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