Eyesworth

落穂拾いのEyesworthのレビュー・感想・評価

落穂拾い(2000年製作の映画)
5.0
【採集の文化史】

アニエス・ヴァルダ監督のロードムービー調のドキュメンタリー作品。

〈あらすじ〉
ある日、パリの市場で、道路に落ちているものを拾う人たちを目にしたヴァルダ監督は、ミレーの名画『落穂拾い』を連想した。それは、農民たちが収穫した後の落ちこぼれた麦の穂を拾い集める貧しい人々の行為。昔は収穫期には必ず目にする光景だった。ヴァルダ監督は、フランス各地の"現代の落穂拾い"を探し、旅に出た…。

〈所感〉
いやぁ面白かった!言うてただの街歩きロケなのに、冒険活劇を見終わったような感覚に陥る。なるほど、この映画自体がその辺で集めた(撮影した)拾い物を繋ぎ合わせたような制作物のためこうも引き込まれるのかもしれない。ブリコラージュの賜である。文化人類学のようなフィールドワークに裏づけされた事実の上に、ヴァルダ監督独自のユーモアセンスを上乗せしたような完璧で味わい深い逸品。彼女によって映される対象となった落穂拾いをする人々はとても貧しいが故に、道端や農村で作物を拾い集める行為をしており、法律的にグレーな人々に見えてしまうのだが、彼らの採集的生活の仕方、生き方というのはある程度文明社会の進んだ我々が喪失した本来的なライフワークのように思える。換言するなら、生きるとは拾い集めて繋ぎ合わせることなのだと思った。
私は『幸福』や『5時から7時までのクレオ』を先に見たが、卓越したドキュメンタリー作家である彼女を味わうためにもこちらを先に見るべきだったのかも。インタビュアーながらちょくちょく顔を出すアニエス・ヴァルダ監督の顔から彼女の人柄や思考が素敵だ。とてもユニークで可愛らしい人物であるのが見て取れる。特にハサミダンスに対抗してレンズの蓋ダンスをお見舞するところが好き。監督として以前に語り手としての手腕が素晴らしすぎる。他の作品もますます見てみたくなった。以下の言葉に非常に共感を覚えた。

「映像や印象を拾うことに法の規制はない。落穂を拾う〈グラネ〉という言葉は比喩的に事実や情報を“収集する”という場合も使う。忘れっぽい私は旅先の収集物でその旅を思い出す。私は拾い集め他思い出と共に日本から戻った。」
Eyesworth

Eyesworth