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アバターのよーだ育休中のレビュー・感想・評価

アバター(2009年製作の映画)
4.0
自然豊かな惑星パンドラには豊富な希少鉱物が眠っていた。莫大な利益を見込みRDN社が採掘に取り掛かろうとするが、鉱床の真上に暮らす先住民族ナヴィとの交渉が難航。そこでRDN社は先住民族と人間の遺伝子を掛け合わせた生体《アバター》を造る。同じ遺伝子を持つ人間の意識を神経接続させることでアバターを遠隔操作し、先住民族との信頼関係を構築しようと画策する。


◆『タイタニック』を超えた『アバター』

1997年から12年もの間破られることが無かった『タイタニック』の世界興行収入を打ち破った『アバター』は、James Cameron監督が打ち立てた大記録を監督自身の手によって打ち破ることに成功した記念すべき作品です。

『タイタニック』も今作も、細部までこだわり抜かれた映像の美しさは特筆すべきポイントでした。『タイタニック』では1912年に沈んだ豪華客船を徹底的に研究し、乗員乗客諸共に現代へと蘇らせることに成功しました。今作は《パンドラ》という仮想の衛星を表現したSF作品ですが、その美しさと質感には驚くばかり。

危険に満ちたパンドラの密林を進んでいく中で多種多様な生物たちと邂逅しますが、そのいずれもが驚嘆に値すべきものでした。ククッと対象物へズームをかけたり、効果的にスローモーションの演出を取り入れたりと、美麗な映像と合わせてゲームのプレイ動画を見ている様な雰囲気を感じるシーンもありましたが、それだけでは終わりません。夜に怪しくも美しく光り輝く動植物たちや、原住民族ナヴィとの交流。彼らの文化や風習を通してパンドラのエコシステムに触れることこそが、今作における最大の特徴です。下半身麻痺に苦しんだ退役軍人のJake Sully(Sam Worthington)がアバターを通じてパンドラの世界を走り回ったように、映画の世界への没入度が非常に高い所が今作の強い魅力でありました。


◆『タイタニック』と類似した構成

物語の構成は『タイタニック』と類似していました。まず圧倒的な映像で観客を惹きつける。その後に待っているのは、まるで『ロミオとジュリエット』の様な《身分の違う男女の恋模様》。今作ではナヴィの族長の娘であるNeytiri(Zoe Saldana)と、アバターのパイロットとしてナヴィに近づいたJake。身分の異なる二人が恋に落ちるというのは、それだけで《周囲の反対》や《相反する立場に起因した葛藤》など物語に起伏を与える障害を引き立てやすいですが、今作では(もちろん其の様な障害もありましたが)身分の違う二人が惹かれ合うことが《個人を尊重》している様に映ります。お互いエイリアンに好意を寄せているという点もそうですが、ナヴィの絆を結ぶ風習(イクランやダイアホース。エイワと呼ぶ大地そのものとまで。)そして印象的な『I see you.』という台詞に起因していると感じます。

その後、ロマンスが絶頂を迎えた所で物語は急転します。万難を排して成就したかに見えた二人の想いが引き裂かれていくように、激しいアクションを伴って物語は激流に呑まれていくのです。今作では有耶無耶にしていたJakeの立場と、好戦的なRDN社の警備主任(後のドンブリじいさん)Quaritch(Stephen Lang)がナヴィ排除に本腰を入れた事が引鉄となりました。

《人類》を代表するかの様にQuaritchがパンドラの美しい自然を破壊していく様は、Jakeの自虐的発言(地球の緑は人間が壊してしまった)を回収するかの様にわかりやすく環境破壊への皮肉を織り込んだ演出となっていました。このシーンではミリオタを公言している監督の手腕が如何なく発揮されていたと感じます。


◆ 王道のJ.Cameron監督作品

J.Cameron監督が地球外生命体をテーマにした作品を描き、Sigourney Weaverが出演している事にニヤリとしましたが、それと同じくらいパワードスーツが登場した時には高まりました。ラストの戦闘シーンの演出は『エイリアン2』を想起させます。パワードスーツの膂力と、それを掻い潜ってコックピットを狙う刃。最後までハラハラ手に汗握る展開はCameron監督にとってはお手の物。比較的長尺ではありますが、最後までダレずに作品に惹きつけられました。

ナヴィに対して重装備で挑んでいくRDN社所有の未来の兵器や多彩な銃火器について、特にデザインやそのチョイスに拘りを感じられる点は流石ミリオタCameron監督。

強い女性が描かれているのも健在でした。今作のヒロインであるNeytiriは勿論ですが、S. Weaverが演じたアバター計画を率いる植物学者Graceも、海軍出身の屈強な男衆だらけの職場で全く物怖じしない逞しい知識人でした。Michelle Rodriguezが演じたパイロットの女性大尉も、芯が強く最後まで筋の通った女性として描かれています。

そして同監督は主要所キャストでさえ容赦なくスパッと切り捨ててしまう事も一つの特徴です。『ターミネーター(1、2、DF)』然り。『タイタニック』然り。脚本を務めた『ランボー2』でさえ、唐突な退場劇に驚かされた覚えがあります。今作においても其のCameron節は発揮されていましたが、従来の比ではなかった様に思います。『人間 vs ナヴィ』の構図で、これでもかと主要キャストが削ぎ落とされました。大規模な戦闘で無常に散っていく命には、従来のエンタメ趣向の退場とは異なり監督が作品に込めたメッセージの一つだった様にも思われます。

今作のラストは、同監督が手掛けた作品の中でもかなりハッピーエンドに寄せた部類だと思います。改めて見返すと、そのクオリティの高さもさる事ながら、十三年の時を経て制作された続編への期待が高まるばかり。


*雑記*
Sakiちゃんとホグワーツからちょっと寄り道してパンドラへ。Cameron節全開の見応えある作品でした!いつも付き合ってくれてありがとう!

『タイタニック 25周年3Dリマスター版』は倍率が高すぎて(そして公私共にバタつきすぎて)劇場鑑鑑賞は出来ませんでしたが、『アバター:ウェイ・オブ・ウォーター』は是非とも劇場で観ておきたい。

…あれ?間に合うのかな?