丽遥

暗殺の森の丽遥のレビュー・感想・評価

暗殺の森(1970年製作の映画)
3.8
すっごく美しい色彩と陰影と構図。冒頭の点滅するライトに照らされたトランティニャンの表情の虚しさたるや、、ラストの檻に入れられた彼の横顔を染める真っ赤なライトに至るまで、鮮やかな色彩がそれと裏腹な彼の生き様を引き立てている。自分を動機づけていた過去のトラウマがなかったことになったとき、もう破滅しかないのかもしれない。彼の混乱した様子からの死んだ目のラストショットには、今後彼が生きる希望を全く感じさせなくて凄かった。どうしようもない男を演じるならこの人だなあ。

主人公のイデオロギーの推移が日本人の戦争観と重なるところもあって、結構分かりやすかったなと。それをプラトンの洞窟の囚人に合わせて展開してたのが面白かった。主人公はイデアとしての普通の人間像を思いみ、ファシズムに身を埋め、普通の女と普通の結婚生活を送ろうとするが、それは紛い物に過ぎなかったと。新婚旅行の列車の中で嫁と睦み始めるシーンはまさにこの説話を体現していて、彼は決して窓の外の太陽を見つめることはせず、太陽を背に影に埋もれるような妻を貪る。それを見越して教授は彼に今一度自省を勧めてたのかもしれないな~彼は良い先生だったんだろう

前半はロングのショットが多くて、空間を意識した画面構成が多かったけど、これは彼の心の中にある虚無感を表していたのかなと思った。任務中は近接したショットが多くて、影が画面を埋めるようなショットが多かったけど、やっぱりこれは主人公がイデオロギーに満たされてるという意味で影に埋もれてるってことなんだろう。

物語のプロットが入り組んでてあらすじを読んでようやく納得したって感じだった😇回想シーンと現在のシーンを同じセリフと構図で繋いでいてとてもスムーズだったし、物語が任務の途中から始まって、ファシスト党採用って感じで進んでいってたので、、
妻と愛人としてのアンナが対象的なのも気になった。それぞれ不倫してることも合わせてちょっとツィゴイネルワイゼン的だなと。鈴木清順はベルトリッチを見てたのかな?
丽遥

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