Hiroki

カンバセーション…盗聴…のHirokiのレビュー・感想・評価

カンバセーション…盗聴…(1973年製作の映画)
4.0
レビューをサボってる間にいつの間にか今年のカンヌが開幕!
今年も出来るだけコンペ監督の過去作で予習していきたいなー...
まずは2024カンヌの話題なので興味ない人は飛ばしてください。

毎年なにかしら問題が起きてるカンヌですが、今年は開幕前から映画祭のスタッフが賃金と保険制度に対する大規模デモを行いストに発展した場合もろもろ中止になる可能性というニュースが。
まーこれは問題というよりは労働者の権利なのでしょうがないのですが、運営サイドもかなりの財政難で対処するのが難しいとか...
フランスでは7月に施行される新しい労働法でほとんどがフリーランスの映画祭スタッフの状況がさらに悪くなることに苦慮しているということで、まだまだ予断を許さないようです。

公式部門のラインナップを簡単におさらいすると、
“コンペ”では常連組のジャック・オーディアール、ジャ・ジャンクー、パオロ・ソレンティーノ、ミシェル・アザナヴィシウス。
新たな常連となりつつあるショーン・ベイカー、アリ・アッバシ、キリル・セレブレンニコフ。
そして巨匠組のデヴィッド・クローネンバーグ、ポール・シュレーダー、さらになんとフランシス・フォード・コッポラ!(これは後で詳しく。)
個人的に楽しみなのは『哀れなるもの』から早くも新作のヨルゴス・ランティモス、『熱波』のミゲル・ゴメス、競争の激しいフランスで長編1作目にしてコンペ入りのアガト・リーディンジェあたりかな。

“ある視点”はまずなんといっても公式部門で唯一日本から参戦の奥山大史。(他には名誉パルムドールにスタジオジブリ!)
サンセバで若手監督賞を受賞した27歳。
これは楽しみ!
他は『I Am Not A Witch』のルンガノ・ニョニや前作でアヌシーなどアニメ映画祭を席巻したギンツ・ジルバロディスのアニメーションなど。

“アウト・オブ・コンペティション”はまずなんとあの奇才カンタン・デュピユーがオープニングに選ばれる驚き!
さらに全世界話題沸騰のジョージ・ミラーのマッドマックス最新作、ケヴィン・コスナー(監督作)の西部劇など。

“ミッドナイト・スクリーニング”にはリュ・スンワン『ベテラン』の続編、フランスを代表する女優ノエミ・メルランの監督作など。

“プレミア”にまさかのレオス・カラックス!と思ったらこちらは40分の中編なのでコンペ外になった模様。
あとは独自スタイルを貫くリティ・パンの新作、ラリユー・ブラザーズの新作など。

最後に“スペシャル・スクリーニング”はなんとアルノー・デプレシャンの新作がここに。(SSはドキュメンタリーが多く集まる部門で今回のデプレシャンはその趣きがある作品だかららしい...)
さらにSSの中の“ヤング・オーディエンス”(もはや何を指してるのかよくからないけど...)に『ぼくの名前はズッキーニ』のクロード・バラスの8年ぶり新作ストップモーションアニメが!

という事で2024もカンヌは盛りだくさん。
まー問題は日本でどれくらいの上映されるかなのですが...


ここまで長くなりましたがフランシス・フォード・コッポラのお話に。
御大85歳、実に『Virginia/ヴァージニア』以来13年ぶりの新作長編!
80年代に企画してから実に40年の歳月をかけたSF大作。
製作費がなく自らのワイナリーを処分してまで作った作品。
しかしハリウッドでは興行的な成功は見込めないと配給会社が二の足を踏む。
そこで手を差し伸べたのがカンヌ。
カンヌの、しかもコンペにコッポラ!
これだけでも、最近の映画ファンにはかなりインパクトあります。
意外というかコッポラはその昔パルムドール(最高賞)を2回取っていて、それが『地獄の黙示録』と今作。(ただ正確には今作の1974年にはまだパルムドールはなくグランプリが最高賞。翌1975年に最高賞がパルムドールになる。)

さて今作はコッポラが脚本も兼ねている作品。
一般的に『雨の中の女』や今作など、原作がなく脚本を自分で書いている作品は、コッポラ本人が熱意を持って撮った作品と言われている。(逆にヒットはしたが『ゴッドファーザー』や『地獄の黙示録』は原作があり、制作する過程にはジョージ・ルーカスが大きく関わっている...そういえばジョージ・ルーカスも今年名誉パルムドール!)

今回の重要な要素は非常にメタ的な視点が強いということ。
主人公のハリー(ジーン・ハックマン)はプロの盗聴屋でクライアントから依頼された会話を録音し、聞きやすいように編集するのが仕事。
この複数の素材から必要な物を選択し、不必要な物を排除し、並べていくという作業はまさに映画制作そのもの。
ただ面白いのがこの主人公ハリーが制作サイドの要素と同じくらい、観客サイドの要素も持ち合わせている点。
彼はそもそも物語(盗聴している内容)を知らない。
一度の盗聴で得た情報(男女の声)だけを元に物語を推理し構築している。
映画の観客そのもの。
しかもそれがストーリー上の時間経過と共に徐々に起きている。
初めて音声を編集する時のハリーは仕事として音声を鮮明化してクライアントに渡すという事に終始徹底していた。
いわば友達の家で全く興味のない映画がついたモニターをボンヤリ眺めているイメージ。
しかし2度目に編集する時はその内容に意味を見出そうとする。その結果2人が殺されるかもしれないという物語を作り出す。
ここで彼はこのストーリーの観客になる。
綿密に組み上げた上でオーバーラップさせていて非常に面白い。

さらに終盤で盗聴のプロであるはずのハリーが逆に自分が盗聴されているかもしれないと疑心暗鬼になり、正気を失っていく。完全にひっくり返る。
この時期のコッポラはジョージ・ルーカスと共に作った製作会社ゾエトロープの作品が興行的に失敗したり、資金面のためにルーカスの勧めで仕方なく制作した『ゴッドファーザー』が爆発的にヒットしたり、おそらく彼が思い描いたようには(良い意味でも悪い意味でも)進んでいなかった。
そこらへんの“ひっくり返る”イメージというのも少なからずストーリーに反映しているように思う。

そして何より主演のジーン・ハックマンが素晴らしい!彼の輝かしいフィルモグラフィの中では地味な作品かもしれないけど。

ここまでかなり絶賛してきたがサスペンス・スリラーとして2024年現在に観たら、正直物足りないとは思う。
ラストのオチも読めなくはないし、途中から夢か現実かわからなくなるような仕掛けも『JOKER』以降の流行りで最近よく見かける仕掛けなので新鮮味はない。
まーこれ約50年前の作品なので当然といえば当然だし、この作品にインスパイアされたこのジャンルの作品も数多あるだろう。(『バッド・ジーニアス 危険な天才たち』の監督ナタウット・プーンピリヤは公言していたはず。)
歴史の1ページとして、素晴らしい古典作品としての輝きは色褪せない!

さー今年のコンペ作『Megalopolis』はアダム・ドライバー、フォレスト・ウィテカー、ローレンス・フィッシュバーン出演の「荒廃したNYを再建しようとする建築家のお話」とのこと。
何よりコッポラがこの作品に対して影響を受けた書籍として私が敬愛するデヴィッド・グレーバーの3冊も挙げられている!
これは楽しみすぎる!
さすがに配給会社は見つかるだろうし、日本でも公開されるはず。

フランシス・フォード・コッポラの夢が最後に花開くのか?
それとも過去の遺物となるのか?
待ち遠しい!

2024-15
Hiroki

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