ともたろう

流れるのともたろうのレビュー・感想・評価

流れる(1956年製作の映画)
4.1
隅田川沿いの、江戸時代から続く花街柳橋。
とある置屋へ入った女中の見た芸妓の世界と没落を描く。
原作は幸田文。父露伴の晩年の様子を綴った随筆で注目されるも、突然の断筆宣言をして住み込みの女中を始める。
その時の経験を生かして書かれたのが「流れる」である。
言葉の選び方、リズム、お手本にしたい文章を書く人。

その原作を元に、名立たる役者たちを配して成瀬監督が映像化した。
豪華である。
なかでも、この映画のためだけに約20年ぶりに復帰した栗島すみ子の存在感はさすが。

かつての売れっ子芸妓、つた奴が営む「つたの家」。
格式はあっても、戦後の豊かではない時代に人の良さだけでは経営は立ち行かない。
表と裏を使い分けられる、料理屋の女将になったお浜のような人物の方が世渡りにはいい。
この対比は溝口監督の「祇園の姉妹」でも描かれたが、こっちのお浜はだいぶ老獪だった。

乾物屋でのやりとりとか、着物での立ち居振る舞い、衿を正す仕草、会話での気の遣い方。
失われゆく世界の余韻。

終盤に山田五十鈴と杉村春子の三味線を弾く場面は清元「隅田川」らしい。

ついと塒を たつ白鷺の のこす雫か 露か涙か
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