ほーりー

流れるのほーりーのレビュー・感想・評価

流れる(1956年製作の映画)
4.5
今年もクリスマスが終わったので、それに因んで、クリスマすみ子の映画をチョイス(゜o゜(☆○=(-_- )゙

前年の林芙美子原作『浮雲』を大成功させた成瀬巳喜男監督が次に手掛けたのは幸田文の代表作『流れる』。

幸田が柳橋の芸者置屋に住み込みで働いたときの経験がもとになってるだけあって、華やかな花柳界の裏側を冷徹に描いたストーリーとなっている。

開巻まもなく、日本情緒がまだたっぷりと残っている隅田川・柳橋の情景が映し出され、その美しさに思わずホレボレしてしまう。

内容は住み込みの女中から見た花柳界の悲喜交々で、華やかなように見えて実は借金に追われたり男に逃げられたりと悲しく辛い部分の方が多いというもの。

早い話が、「元祖・家政婦は見た!」なのである。

女中視点で描かれているため、本作は一度も花柳界が舞台でありながらお座敷シーンがないのも特徴である。

さて、本作は内容面もさることながら、やっぱり何といってもキャスティングの凄さでありましょう!

正真正銘の大女優たち……田中絹代、山田五十鈴、高峰秀子、杉村春子、岡田茉莉子、そして栗島すみ子が同じ絵面の中に映っているのを観ると思わず、おぉ!と声が出てしまう。

オール女性スターキャストの映画では本作と同年に『赤線地帯』があり、こちらも京マチ子、若尾文子、木暮実千代、三益愛子と豪華な顔ぶれだが、本作は何てったって日本映画女優の草分け・栗島すみ子の存在があまりにも大きい。

栗島すみ子は何しろ松竹が蒲田から大船に移転したタイミングで辞めた人だから、もはやこの時点で既に伝説的な大スタアだった人。

何かの本で読んだが、本作が公開された時、普段は映画なんか全く興味のなさそうな老紳士が映画館の看板を見て、チケット係の人に「本当にあの栗島すみ子が出演しているんですか?」と確認して、切符を求めて入っていったという。

本作の栗島すみ子は一見気さくな気前のいい女将さんのようだが実はかなりのしたたか者という役どころで、彼女がそこにいるだけでもただならぬ空気が感じられる。

そして勿論彼女以外の他の女優たちも素晴らしい。しかもいずれも自分たちの最も得意な役柄でおもいっきり勝負をしているようだった。

田中絹代は母親のように慈愛に満ちた女性を情感たっぷりと演じている。中北千枝子の娘が注射を嫌がる場面では彼女が怖がらないように優しくタオルケットで包むシーンが印象的。

一方、山田五十鈴は得意の三味線を活かした艶やかな置屋の女主人役で、ふと見せる仕草がとても色っぽさを感じさせる。

杉村春子はちゃっかり者の年増芸者。終盤、男に捨てられて荒れるシーンが印象的で、デコちゃん扮する勝ち気で潔癖な娘と口論となるシーンはこの二人の名女優による見事な演技合戦で本作の白眉だと思う。

ポロっと涙を流す杉村春子とギュッと唇を噛み締めて悔しさを表す高峰秀子に、スゲェナァと感嘆してしまった。

他にも岡田茉莉子は如何にも戦後の現代ッ子という感じであり、シングルマザー役の中北千枝子の無気力っぷり、賀原夏子扮する“鬼子母神”のお姉さんも名演だった。

例えていうなら名投手が一堂に会して、己の一番得意な球種で真っ向勝負をしている……そんな奇跡のような映画であったと思う。

■映画 DATA==========================
監督:成瀬巳喜男
脚本:田中澄江/井手俊郎
製作:藤本真澄
音楽:斎藤一郎
撮影:玉井正夫
公開:1956年11月20日(日)
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