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知られぬ人のdiesixxのレビュー・感想・評価

知られぬ人(1927年製作の映画)
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2023年10月リリース、Criterion版「TOD BROWNING'S SIDESHOW SHOCKERS」の一本。
ブラウニングが、映画黎明期の怪優ロン・チェイニーと組んだ6本目の映画だが、まだキャリアの浅いジョーン・クロフォードの出世作ともなった。
サーカス団に所属するアロンゾ(チェイニー)は、両腕を持たないが足を使って巧みなナイフ投げを披露している。サーカスの花形アシスタントで団長の娘ナノン(クロフォード)に思いを寄せている。同じサーカス団員で力自慢のマラバールもナノンに恋しているが、ナノンは極度の男嫌いで、男性に触れられることに恐怖心すら抱いている。このため、腕を持たないアロンゾはナノンから特別な信頼を勝ち得ていた。
しかし、アロンゾには犯罪者としての裏の顔があり、実は両腕がありながら身を隠すために障がい者のふりをしていた。ある日そのことが露見し、団長を殺害してしまうが、アロンゾには疑いがかからない。アロンゾはナノンに愛されたいが、腕の秘密を明かすわけにもいかず、わざわざ遠方に出かけ、外科医を脅して自らの両腕を切り落とさせる。
多大な犠牲を払い、ナノンのもとに戻るが、ナノンは男性への恐怖を克服し、マラバールと結婚していた…。
ブラウニング一級の不気味なホラーと犯罪、メロドラマが融合したサイレント期の傑作。チェイニーが足を使ってタバコを吸ったり、紅茶を飲んだりする場面は実際のサーカスで活躍した役者の足で吹き替えてあり、『フリークス』を予告している。
短い上映時間に無駄のなくストーリーが収められているうえ、個別のキャラクター造形も複雑で示唆に富んでいる。
男性に触られることを拒絶するナノンは明らかに何らかの性被害からくるトラウマを読み取ることもでき、「#MeeToo」以降の現代の感覚で見ると、よりリアリティを持つキャラクターに映る。そしてなによりアロンゾである。主人公にもかかわらず、卑劣で狡賢く、極端なこの男。ナノンの結婚を知り、笑いながら涙するリアクションのクローズアップは衝撃的である。その後のグランギニョル的な結末を含めて、恐怖と情念が爆発し、後にはやるせない余韻を残す。
脚本のウォルデマー・ヤングも、ブラウニング、チェイニーとの仕事が多い。1910年代から80本以上のシナリオを書いたベテランで、30年代にはセシル・B・デミルとも仕事している。脂が乗り切っているころの一本。
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